第65話 中華一の金持ち

 俺の名前は奥洲天成。

 俺は今、見上げるばかりに積み上げた財宝の前で悩んでいる。


 前世の俺は貧乏だった。

 食べたいものも食べられず、常に金に追われる日々。

 公共料金の支払もままならない有様だった。

 そんな貧困の中に死んだ俺が願うのは富貴。

 そう、ただ富貴。

 金!

 金こそ全て!


「金持ちになりたい。世界一の金持ちになりたい!」

『うーん、まあいいわ。じゃあ世界一の金持ちに転生しなさい』

 女神はあっさり転生させてくれた。


 転生先は中国。満州族として転生した。

 俺の前世の記憶は一部が失われていた。

 ただ、金に苦しんだ前世の記憶ははっきりと残っている。

 だから必死に働いた。


「テンセイ様、私はこの官位が欲しいのですが」

「何だと、こんな端した金であの地位が欲しい? 馬鹿を言うな! 出直してこい」


「馬鹿者が! 貴様がこれまでに払ったのは、俺に会うための裏金だ。俺が口利きをするには更に三倍の金が必要なんだよ!」


「テンセイ様のために黄金のお菓子を持ってまいりました」

「ほう、貴様、中々気が利くではないか。良かろう、貴様の罪はなかったことにしてやろう」


「能力主義!? 馬鹿野郎、貴様程度の者の代わりは金さえあればいくらでも来るんだ」


「毎月の賄賂が払えない? ならば税金をあげれば済むだけの話ではないか」


「絞り取れ! 俺の金庫のために!」


 俺は朝から晩まで必死に働いた。

 その結果、俺は大金持ちになった。

 東京ドーム十個分くらいの金が、俺の手元にある。

 だが、貯めれば貯めるほど更に欲しくなる。

 どうすればいい?

 更に金を稼ぐには、どうすれば……


『やり過ぎよ!』

「ぐはあ!」

 な、何だ? どこからか、雷のようなものが落ちてきた。

「うっ!」

 その瞬間、俺の頭に前世の記憶が完全に戻って来た。

 そう、今の時代の知識も全て。


 まずい!

 俺が転生したのは、乾隆帝の寵臣ヘシェン。

 皇帝が全面的な信任をしてくれるのをいいことに汚職で荒稼ぎした男だ。

 そのまま終われば良かったのだが、乾隆帝が死んだ後、当然のように弾劾されることになった。待つ先は死刑。

 その後没収された金は、GDP10年分を超えていたという。


 当時3億くらいの人口がいて、一人あたりのGDPは600$だったらしい。その10年分ともなると、えーっと、240兆円?

 すげえ! 俺、こんなに貯めたんだ!


 じゃねえ!

 このままだと来年には処刑されてしまう。

 どうすればバッドエンドを回避できるんだ!?


 というか、これだけの金をきちんと使えば、アヘン戦争で勝てる方向に持っていけない!?



"女神の一言"

 どうやらバッドエンドを避けたいようですが、彼の時代に完璧な汚職網ができあがり、汚職大国として完成させてしまったので、いきなり「俺、やめたい」と言っても絶対に無理でしょうね。賄賂で美味しい思いをすることを覚えてしまったので満州族が弱くなってしまったとも言われていますし……。


 ちなみにGDPや人口についてはかなり前後していますので、実際の額がどの程度なのかは何とも言えないところです。

 実際には2兆円くらいではなかったかという話もあります。いや、2兆円でも無茶苦茶な額ですが。


 全然関係ないのですが、東京ドームが単位になっていることに作者は時々疑問を感じるようです。

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