第64話 貴族の家系図
俺の名前は奥洲天成。
俺は色々あって転生して、今は馬として過ごしている。
「ヒヒヒィン、ヒヒィン(つまらないなぁ。これだけ暇だと戦場で撃たれて死んでもう一回転生したいなぁ)」
自慢ではないが、人間としては俊足ではなかった俺だが、馬としては早い。今まで競争に駆り出されて負けたことがない。
だから、有名な将軍とか乗ってくれないかなぁ。
と、牧場の入り口が騒々しい。
『ほう、こいつはそんなに速いのか?』
『はい。速いですよぉ』
入り口で牧場主が俺を誰かに売り込んでいるようだ。
無理もない。俺ほど速い馬はどこにもいないからな。毎週日曜日レースと称して、牛のイクコやラクダのメガミと競争をして全勝だ。
桜花賞、皐月賞、ダービー、オークス、安田記念、宝塚記念、秋華賞、菊花賞、有馬記念その他諸々全部勝ってきた。途中から数えていないが95戦95勝のはずだ。
と、長身の男が歩み寄ってきた。俺をしばらく眺めている。
『……そこまで強いかな? こいつ』
『強いですよ。この実績を見てくださいよ』
そうだ。俺は95戦全勝だぞ。
しかし、男は懐疑的だ。
『うーん、俺は誰よりも馬のことを愛しているからな。凄い馬というものは触っただけで伝わるはずだが、こいつからはそこまでのものを感じない』
いるよね~、こういう自意識過剰な奴。
『周りがあまりにもうるさいから仕方なく人間の女とも結婚しているが、俺は馬しか触っていない。その感性が、こいつは微妙だと語っている』
あ、こいつ、ヤバい奴だ……。
そんなやばい奴だが、ひとまず俺の実績を買ってくれたらしい。
そのままウィーンの王宮へと向かった。
『皇帝陛下、この馬を貴族として叙任いただきたい』
男が訳の分からんことを言い出した。当然、周りがどよめく。
『正気なのか伯爵? 馬を貴族にせよ、などと』
『当然だ。こいつは貴族の条件を満たしている。血統表を見せよう』
と、男は血統表を皆に見せた。
『16代遡れば貴族に叙任できるというが、こいつは30代遡ることが可能だ。そんじょそこらの貴族よりも歴史がある』
そ、そうなのか?
というか、10年足らずで代替わりする馬と、人間の家系を同一視するのはどうかと思うのだが。
議論の挙句、一応、俺の30代の家系は通用したらしい。
『そんじょそこらの人間の家系図よりも、スタッドブックの方が信用に値するからな』
なるほど。
確かに、家系を語っても中々金にはならんが、馬の子供は親が誰かで全く買値が変わってくるからな。
『とはいえ、一応力の裏付けが必要だということで、これから競争をする。おまえが本物であることを願っているぜ』
男はそう言って、俺の肩をポンポンと叩いた。
あれ、もしかして、期待外れだったら、俺、馬刺しになる運命……?
"女神の一言"
本文は違う方向に走っていますが、昔、貴族に叙任されるには先祖を16人遡れることが必要だとか言われていたようです。有名なアルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインも家系図を拵えたのだそうで。
人数の必要はなかったのですが、日本でも天下人になるには源氏や平家の子孫でなければダメだということで、織田さんも德川さんも家系図を拵えたらしいという話が残っています。
豊臣さんはそれが出来なかったので足利さんに養子縁組頼んで断られたので関白の方向に行ったということらしいですからね。
能力主義の実現というのも中々難しいようです。
って、ラクダのメガミって何やねん(怒)!
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