第60話 その剣にご用心
俺の名前は奥洲天成。
俺はトラックに撥ねられて死んだ後、女神によって五代十国の中国に転生させられた。
俺は『天』国を立ち上げ、とりあえず王を名乗った。
いずれは皇帝を名乗るつもりだ。他の天成とは違う。俺は出来る天成なのだ。
何と言っても、今回、中国担当の神に賄賂を渡して、人名辞典を持ってくることを許されたからな。さすがに賄賂大国の中国、神ですら賄賂が通じるとは驚きだった。
辞典があるから、優秀な奴がどこにいるかがすぐに分かる。攻略本を読みながら『三国志』や『信長の野望』をプレーするのに近いな。
カンニングで強い連中を集めてきた天軍は連戦連勝。俺は南の方の軍閥の半分くらいを蹴散らした。いやあ、楽しい楽しい。
そろそろ、『天』国皇帝を自称してもいい頃だろう。
だが、その前に活躍した将軍達に報いなければならない。俺は出来る奴なのだ。
それに三国志も信長もある程度以上強くなってしまうと残りが作業になってしまって面白くない。だから、優秀な連中への委任モードにしてしまいたいというのもある。
俺は有名な鍛冶屋に頼んで15本の名剣をあつらえた。
これを円卓の場で皆に渡そうというわけだ。円卓というのは立場の上下がないことを意味する。つまり、「俺は皇帝だが、おまえ達とは同等だと思っている」という意思表示だ。
吉日を選んで、俺は剣を諸将に届けることにした。
「これを楊師厚に届けてこい」
部下が「えっ!?」と声をあげ、「本当ですか?」とばかりに俺の顔を見た。
「……どうした? 俺が奴に剣を渡すことの何が悪いのか?」
「い、いいえ、畏まりました」
ふむ。まさか君主直々に名剣を渡すとは思わなかったわけだな。
そんな感じでみんなに剣を届けてやった。
今度召集した時には、みんなで円卓を囲み、剣を掲げて桃園の誓いみたいなことでもやろう。
翌日。
「天成様、楊師厚の細君が参られました」
「……? 何の用だ? 腹でも壊したのかな」
通して見ると、喪服を着ている。
「夫に何の恨みがあったと言うのですか!?」
「恨み? 恨みなんかないぞ」
「では、何故自決用の剣など贈られたのですか? 今朝、その剣で自害しましたとも」
「……えっ?」
どういうこと?
昼までに分かったことは、剣を送られた者は皆、「その剣で自決せよ」という賜死の指示と受け止めたということであった。
「それで、全員、自決してしまっただと……?」
「はい……、領内が不穏になってきております」
それはそうだろうなぁ。
いきなり、自軍の主力将軍全員自決させたなんてなると、軍はぶち切れるに違いない。他国も「あいつらがいないなら攻めてやれ」となるに違いない。
辞典にいる奴は全員採用していたから、もう代わりとなる者はいない。
勝ち組だったはずなのに、どうしてこうなった……?
"女神の一言"
ヨーロッパだと部下に名剣を与えるのは良くありますが、中国で部下に剣を与えるのは、「これで自殺しろ」ってことを意味するんですよね……
伍子胥が剣を与えられて自刎したというのは有名ですよね。
三国志のゲームでも剣を部下にあげることができますが、ちゃんと説明しないと取り返しのつかないことになってしまうかもしれませんのでご用心を。
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