第58話 本当に昔は良かった話

 俺の名前は奥洲天成。

 俺は天界へと戻ってきた。


「なあ、女神よ」

『あら、異世界から戻ってきたのね。魔王エリーティアの支配する世界はどうだった?』

「かなり独特な世界だったな……」

『なるほど。次はどこに行く?』

「ちょっと待て。この話は、基本的には現代は酷くて中世は良かったと思いたくなるところを、『そうじゃないよ、今の方が余程いいよ』と思わせることをメインにしているよな?」

『最近はネタ切れで必ずしもそうではないけど、基本はそうよね』

「たまには、昔の方が明らかに良くて、今はダメになったところに行きたい」

『ふむう』

「ないとは言わせんぞ。栄枯盛衰は世界の常だからな」

『そんじゃあ、このあたりにでも行ってみなさい』


 ということで、俺が転生したのは、とある平原地帯だった。

 むむむ、高台から見渡すと、土地の方には農作物が実っている肥沃な大地がある。一方で海の方を見ると、船が多数往来している。

 ふふふ、俺を馬鹿にしてはいけない。この風景はそう、南米だ!

 リオデジャネイロとかサンパウロに転生したのだ! そうだろう?

『外れです』

 くっ、ダメ出しを食らってしまった。最近の女神は転生先でも普通に突っ込んできて鬱陶しい。

「ならば、どこなんだ!?」

『7世紀のシリアですよ』

 シリア!?

 シリアというと、悪いロシアと悪いイスラエルと悪いイスラム勢力が競い、かつ世界トップクラスの独裁者アサド家が支配するところではないか!

『20世紀はそうですけれど、昔はこんなにいいところだったんですよ』

 クッ!

 確かに、ビザンツ皇帝ヘラクレイオスはシリアを失う時に「ここは敵にとって何と素晴らしい場所なのだ」と嘆いたと言われている。

 ということは、トルコやギリシア以上に、昔のシリアはいいところだったというのか!?


『そもそもチグリス・ユーフラテス川付近も農業をやりすぎて砂漠化してしまったという話ですしね』

 むむう、確かに四大文明でも最古クラスなわけだからな。

 森林伐採をして、砂漠化してしまったという話は普通にある。

 シリアにしても、昔はこれだけの草原だったのか。こんなところだったら……。

『多分、極端な独裁者を要求するほどの貧困にはならなかったでしょうね。でも、この平原を巡って争った結果、悲惨な土地になって独裁を要求することになったというのも事実なんでしょうけれど』

 何という悲しい話だ。

『日本やイギリスは端っこにあって、土地も微妙だから独自に発展できたというところはあるんでしょうね』

 うーむ、確かに資源もそれほどないし、な。

「分かった。勉強になった。そろそろ帰らせてくれ」

『何を言っているのよ。転生したのだから人生を全うしなさい』

「むむっ? 俺は何に転生したのだ?」

『アリー♪ アリー♪ カリフ四代アリー♪』

「ちょ、ちょっと待て!」


 そいつって暗殺された奴じゃないか。

 え、後ろに何か気配がある。

 うわー!



"女神の一言"

 カルタゴを滅ぼした時にローマが徹底的に破却した逸話があり、その真偽は謎ですが、そのくらい北アフリカというのは脅威の場所だったんですよね。

 それがいつからか、ほぼ砂漠で地下資源以外何もない国になってしまったというのは悲劇と言うしかありません。


 中東地域からは少し離れていますが、ソ連邦がアラル海付近で農業改革を行おうとして大失敗した結果、世界第四位だった面積は今では20位前後まで低下しています。

 結局のところ、大規模農業は成功しても、失敗しても悲劇が待っていると言ってもいいのかもしれません。


 ラストの歌が分からない人は"魔法使いサリー、歌"で検索してもらえれば分かります(笑)

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