第56話 悪女とハーレム② 子供はスタート地点

 ワタクシの名前は奥洲郁子!

 男を翻弄する悪女に憧れる純真な乙女ですわ!


『純真な乙女は悪女にならないと思うけど……。しかも過労死するくらいならそれなりに世間に揉まれていそうなんだけどねぇ』

「ハッ! 二流女神はこれだから困りますわ。真の悪女は清らかなまま悪女になるのよ!」

『ああ、そう。それじゃ、今回は高橋お伝にでもなりなさい』

「お待ちなさい! それは単なる悪人であって、悪女ではありません!」

『我儘ねぇ……。それじゃ、イスラム世界のハーレムでも行ってみる?』

「いいですわね! 前回の中国は失敗しましたが、イスラム世界ならチャンスが四倍に増えますし、ワタクシがこれまで培ってきた悪女のイロハが活きるはずですわ!」

『じゃ、行ってらっしゃ~い。ふう、やれやれ……。それじゃ、私は韓流ドラマでも。こっちも最近悪女系多いのよねぇ』


 ここはどこでしょう。

 確かにイスラムぽい建物の中にいますわ。

 ただ、どこの国かも分かりませんわね。二、三日様子を見てから皇帝陛下(多分)の情報を聞き出すとしましょうか。


 と思っていたら、その夜。

「マッスルー! 今日はおまえを相手にしよう」

 何と! 物凄く筋肉質な豪華な衣装を着た男が現れました。

「も、もしかして皇帝陛下ですか?」

「いかにも。余が皇帝イスマーイールである。キャストオフ!」

 皇帝陛下がそう叫ぶと、服が某ケンシロウのごとく吹き飛びました。その中には筋骨隆々とした身体が。

 年齢は60くらい行っていそうなのですが、とてつもない身体の持ち主です。

「筋肉は裏切らない。マッスルー!」

「マッスルですわ!」

「おぉ、余に合いの手を入れるとは、気に入った」


 かくして、皇帝陛下に気に入られ、三年間に二人の子供を儲けました。

 ここからは他の子供がいそうな愛妾共との壮絶な争いが待っているわけですわね。ライバルを毒殺したり、スリッパで殴り殺したりするような壮絶な戦いが。

 と、何やら軽そうなノリの男がやってきましたわ。

「ちわーっす。こちらで陛下のお子様を産んだ女がいるということで、記録に来ました」

「ワタクシですことよ! 二人も生みましたわ!」

「おーっと、おめでとっス。じゃあ、ここに名前を書いてください」

「分かりましたわ」

 と、署名しようとしたら、何やらびっしりと名前が書きこまれています。

「……あの、これ、全部陛下のお子?」

「そうっス。これが五冊目です。下手すると千人を超えるかもしれないっスね」

「千人!?」

「そうっス。でも安心するといいですよ。陛下のお子様を産んだ女なら、手切れ金を貰えますんで」

「あの、ワタクシの子が次のスルタンになるということは……?」

「あー、それはないっス。陛下は筋肉馬鹿ですが、その分頭の良い女性が好きなので」

 な、何ですってー!?


"女神の一言"

 もちろんここでいう皇帝というのはアラウィー朝のムーレイ・イスマイールのことです。ギネスブックにも「一番子供が多い人」ということで記録されていますね。


 マッスルー! は作者の創作ですが、筋肉質な人物ではあったらしいです。でないと、千人も子供が出来ないでしょうしね。


 ハーレムを勝ち抜くのも中々大変ですね。

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