第54話 戦国ブラック企業譚
俺の名前は奥洲天成。
ブラック企業に勤めていた俺は出張先で。
「ウッ! 心臓が!」
「キャアアア!」
心臓麻痺を起こして死んでしまった。
『一時期に比べるとトラックは少なくなってきて、最近はブラック企業が多くなってきているな……』
女神かと思ったら、男の神が出てきた。
『災難だったな。おまえが勤務していた株式会社ブラック・オブ・ブラックは私の知る限りでも最強のブラック企業だ。部長の
何なんだ、それは。健康状態を把握しているのなら、休ませろよ。
「とにかく、俺はもうブラック企業は嫌だ。昔に転生したい。日が出たら働き、沈んだら休めるような当たり前の世界が」
『フフフ、過去の世界にもブラックな環境は存在するのだよ』
「そんなことはないだろう?」
『まあ、試してみるといい』
俺の転生先は戦国時代だった。
戦国大名・羽柴秀吉の下で働くことになった。
ここのどこがブラックなんだろうか?
「おう天成! ここにいたきゃ? これから勝家の奴と決戦だぎゃー! 決着がつくまで家にきゃえらねーつもりでおれ!」
「ははっ!」
そうだ、柴田勝家との織田家後継ナンバーワンを賭けた争い。
絶対に負けられない戦いが、そこにある!
俺達は賤ヶ岳で勝家に勝利した。
「織田信雄が家康の奴と組んでしまったぎゃー! また叩くで!」
よっしゃ!
小牧・長久手の戦いにも勝利した。
「四国に行くでー!」
お、おう……。
長宗我部を降伏させて、四国も羽柴家のものになった。
「大友家から救援が来たでー! この機に島津を打ち倒すぎゃ!」
今度は九州か……
九州まで出張って、島津も降伏させた。
「真田の城を巡って北条と小競り合いが起きたぎゃー! この機に奥羽も取ったるでー!」
まだ終わんねえのか……
お分かりいただけただろうか?
1582年から10年近く、俺達は日本中を駆け巡る羽目になってしまった。
この過酷な環境によって、羽柴秀吉いや今や豊臣秀吉は天下統一を達成できた。
しかし、その副産物として……
「正則、清正、俺達いつになったら子造りできるんだろうなぁ」
宿将の福島正則、加藤清正ら主力の子飼いは働きづめで子供ができない。
「おい! 三成の野郎! 子供が出来たってよ!?」
「何ぃ! あの野郎、自分は戦場に出ないからって嫁さんとよろしくやっているっていうのかぁ!? 前からあいつのことは気に入らなかったんだ!」
後の天下分け目の戦いの原因となる不和の種が生まれた(嘘です。でも三成だけこの時代子供が出来たのは本当)。
結局のところ、この時代、秀吉子飼いの面々に後継者ができなかったことは、秀頼をサポートできる側近がほとんどいないという反作用を招いた。
それだけが原因ではないが、豊臣家は秀吉の死後あっさりと家康に超されてしまい、最終的には滅亡した。
ブラック企業が栄えるとしても一時的なもの、ということだな。
そうあってほしいものだ。
"神の一言"
1580年代は豊臣家の面々も徳川家の面々も、ほとんど子供が出来ていない。それだけ大変な時代だったということなのだろう。
ちなみに本文で三成が出ていたが、七本槍の脇坂安治も作っていた。
彼は関ヶ原でも要領よく立ち回ったし、個人のちょっとした才覚が秀でていたのかもしれない。
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