第53話 【番外編】勇者の給料

注:この話はリアル中世ではなく、フィクション的ファンタジー世界の話です。ちなみに10話と似たような観点に立っていますが、別解釈をしています。


 俺の名前は奥洲天成。

 トラックにはねられた俺は、勇者パーティーの一行に加わり旅をしていた。


「打ち首じゃあ!」

 鋭い剣さばきで、勇者兼贈賄ぞうわい担当の越後屋上野介えちごや こうずけのすけがスライムを叩き斬った。スライムのどこを斬れば打ち首になるのかは知らん。

 まだ微かに動いているスライムに、戦士兼集金担当のナイ・カポネがトンプソン・サブマシンガンを打ち込んでトドメを刺す。

「何ということをするのです。有り金の場所を吐かせてから殺せば良かったのに……」

 魔道士兼経理担当のアズサー・アンダーセンが顔をしかめた。


女神注:アーサー・アンダーセン会計事務所は21世紀初頭のアメリカ大手会計事務所でしたが、エンロン事件で粉飾決算をしていたとして、刑事訴追されて解散しました。


「たかだかスライムでもそれなりの金は保持しているのですよ」

 ぼろ雑巾のようになったスライムをひっくりかえしてブンブン振り回すと、どこかに含まれていたらしい金貨がチャリチャリと落ちる。

「しめて30ゴールドですか。こんなもんですかね」

 そう言って、ポイッとスライムを投げ捨てる。

 それを僧侶兼清掃担当の俺が清掃する。


 アズサーは帳簿を取り出し、「スライムを倒し1ゴールドを入金」と記録した。



 皆は不思議に思ったことはないだろうか。

 ゲームの序盤勇者たちは金欠である。しかし、彼らの仕事は命懸けだ。こんなに割に合わない仕事はないだろう。

 実際はそんなことはないのだ。


 大体の王国には『冒険者事業部』というものがある。

 要は勇者などの冒険者を管理しているところだ。ここから初期の出費(しょぼい初期所持金とひのきの棒みたいな使えん武器だ)が出されているが、あれだって一応国の出費である。

 国の出費の下に、冒険者たちも事業報告をしなければならない。とはいえ、かつかつにやらせてしまえば、冒険者のなりてはなくなる。

 そこで基準金額というものが決められている。スライムを倒したら、1ゴールドを収支記録に残し、その収支記録の中から自分達の武器なり宿泊費を賄えということだ。

 余ったお金(今回の29ゴールド)については、冒険者達が着服していいものとされている。

 これによって一攫千金を狙う冒険者が増えるということだ。


 まあ、その結果としてこういうとんでもない面々が勇者になるわけだが、な。

 魔法の鍵を悪用して、一般民家に侵入してタンスなどを調べるというのも当たり前のように行っている。


 えっ?

 こんな勇者たちなら、弱いものだけを狙って、魔王とか上の方の連中は倒さないんじゃないか、って?


「わしは更に上の役職が欲しいのじゃ。そのためには下剋上をしなければならない」

「俺はこの街を支配して、『ギャングスター』になるんだ。分かったな? ブチョラティ」


 少なくとも勇者と戦士はやる気満々だ。

 もちろん、そうでなくて途中で堕落する勇者もいるだろう。

 そういう奴らは歴史には残らない。


 ただ、残った勇者も記録に残らない隠し財産がある、ということは知っておいた方がいいだろう。



"女神の一言"

 公務員並みの給料しかもらえないのに、魔王を倒せなんて言われたら、魔王側に買収されてしまう勇者もいるかもしれませんからね。

 インセンティヴは大切です。


 ま、インセンティヴのみに目がくらむ勇者だったら「世界の半分」とか約束された時に、よだれを垂らして飛びつく可能性もありますが……。

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