第33話 世界の始まり
俺の名前は奥洲天成。
俺は久しぶりに普通にトラックに撥ねられて、中世の神父として転生した。
「神を信じなさい。そうすれば、皆、救われるのです」
毎日同じことを言っていればいい。楽な話だ。
そうは問屋が卸さない。
ある日、一人の女の子が俺のところに来た。
「神父様、世界の始まりというのは何時なのですか?」
8歳くらいの女の子なのに難しいことを聞きやがる。
「それは神様が大地を作った日なのですよ」
「それはどのくらい昔なのですか? 何かそれを示す証拠はあるのですか?」
中々難しいことを聞いてくるな。
ビッグバンが起こったのは130億年くらい前だという話はあるが、証拠を示せと言われても分かるわけがない。現代人ならビッグバンが起きたらしいということは知っているが、それがいつであるかを示す証拠なんて分からんからな。いや、一応宇宙にはあるらしいが、そういうのが分かるのは物理を極めた人間で、俺のような中世大好き文系人間には分かる由もない。
「神様は世界が始まった時からいたのですよ」
「でも、神様もどこかから生まれてきたのよね? となると世界が始まる少し前から神様がいたことにならないかしら? 神様にもお父さんやお母さんがいるのなら、もっと昔から世界があったことになると思うわ」
ガキィ……。
くそ生意気なガキを黙らせたい衝動にかられるが、町中から尊敬される神父としてはそういうことはやりたくない。
仕方がない。ここは他人に押し付けよう。
「よいかな。世界のことは聖書に書かれている。これをきちんと研究した者達が数人いる。古い説は紀元前6904年という説だ。ただ、イスラム世界まで聖書を研究したジェイムズ・アッシャーによると紀元前4004年というのが世界が始まった時とされているのだよ」
「ふうん」
女の子は何となく納得したように見える。
「もちろん、私もそこまで聖書を丹念に読み込んでいないから、よくは分からないのだけれどね」
一応、言い訳の防波堤を張っておこうとした途端、とんでもないことを言いだした。
「でも、あたし、色々考えて世界は相対性だと思うようになったの。そうなると、何だか可笑しいように思えてきて」
そう言って書き出したその式は……
こ、このガキ! 相対性理論について理解しているだと!?
まさか、俺と異なる転生者ではないのか?
「相対性理論で考えると、世界はもっと昔からあるんじゃないかと思うんだけど」
「は、はははは、そうだねぇ」
俺は後日、この娘を異端審問ででっちあげて、そのまま火刑に処することにした。
世の中には知っていいことと許されないことがある。こんな理屈が我が教区で広がれば、自分の命も危うくなるし、彼女の両親だって魔女の両親として処刑されるだろう。
心苦しい話ではあるが、皆の平穏を考えればやむをえない処置だったのだ。
できれば19世紀末くらいに転生して、アインシュタインとして物事を解決してくれ。
"女神の一言"
創世神話は大抵の世界にあるのですが、それを理屈として裏付ける何かがあるかというと、全くありませんでした。
ために、本文中にもあるように聖職者達が聖書を忠実に訳して考えていたと言われていますし、他の世界についても似たようなことが行われていたのだろうと思います。
それが覆されたのがアインシュタインによる相対性理論の発見であり、それを突き詰めていったビッグバン理論によるものです。
もっとも、これと対立するような形で、宇宙は永遠の太古から存在していたというような説も出てきて、中々解決しませんでした。
科学研究によるものの末、今のビッグバン理論に至っていますが、中世時代にはこんな結論にいたるわけもなく、「世界がいつ出来たか」なんて考えることは非常なヤクネタだったと言えるのではないでしょうか。
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