第32話 海賊王に、俺はなる?
俺の名前は奥洲天成。
俺はファンタジー世界のちょっとしたアウトローが好きだった。海賊とか盗賊の親分とかだな。あまりにも残酷過ぎると引いてしまうが、世界の言いなりになっている感のある善玉よりも好きだ。
『で、ちょっとしたワルを体感したいと自転車を飲酒運転したら滑って頭を強打してしまったというわけか』
飲酒運転はダメだぞ、絶対に。
『まあいい。転生先の希望はあるか?』
「そ、それなら、海賊王になりたいです」
『海賊王。そうか、バッカニア海賊の一番酷い奴になりたいんだな』
「い、いや、あいつらは悪すぎる奴です。もうちょっと古い時代の古き良き海賊になりたいです」
『贅沢な奴だが、最近勇者や魔王の希望者が多すぎて、海賊あたりは希望者が少ない。まあ、いいだろう』
ということで、神様の了承を得て、俺は海賊として転生した。
目指すは海賊王!
俺は地中海で活躍している海賊団のボスの息子として転生した。
10歳にして、海賊デビューだ。
「あっ! 怪しい船がいる。あれを襲おう!」
俺の呼びかけを親父は軽くかわす。
「テンセー、慌てるな。あれは俺達と同じ信徒の船だ。そんなことをしたらバチが当たるぞ」
「そ、そうなの……? あっ! あの船はキリスト教徒の船だから、襲ってもいいんじゃない!?」
「テンセー、慌てるな。あの船はな、俺達にきちんと通行料を支払っているんだ。だから見逃してやりな」
「そ、そうなの?」
様々な理由で、行きかう船を十隻くらい連続して見逃している。
これで海賊と言えるのか?
三日後、親父は近くの港に向かうと言い、仲間の船を四隻ほど駆り出して出発した。
遂に海賊らしいワルが出来そうだ。俺の心は躍る。
船は北アフリカの沿岸都市の港に横づけした。
さあ、襲うのか!?
と、親父たちが積み荷を持って、商店へと向かう。
「この前、インド洋交易を終えた船から買ってきた荷物だ。いい品だぜ?」
「それならば、このくらいの値段でどうです?」
こ、こいつ、俺達の足下を見ていないか?
海賊の足下を見るなんて何て生意気な。親父の力で吹っ飛ばしてやる……
親父は葉巻を吸って、渋い顔をした。
「相場ギリギリを攻めてくるたぁ、世知辛いねぇ」
親父は結局、その値段で売ってしまった。
「親父、これじゃ、儲けがほとんどないんじゃないか?」
「……まあ、仕方ねえ。こんなこともあるさ」
親父は淡々としている。こんな様子では、舐められるんじゃないか?
と思った途端、部下のジャスティスが親父に耳打ちしている。
「何ぃぃ!?」
親父が急にぶちギレて、裏路地の店へと向かっていった。
「こらぁ! エチゴヤ! 貴様、果物を相場の四倍で売っているらしいな!」
「ひぃっ、オウシュウ一家様!?」
「みんなの食い物を高値で売るなとあれほど言っただろう! 相場を超えた分は返してやれ!」
「えぇっ? もうかなり売ってしまって、売った相手も覚えてないですよ?」
「そうか。だったら、俺達が代わって返してやるから、金庫を開けろ!」
親父がそう言った途端、エチゴヤはひれ伏して何度も土下座した。
「ひぃぃぃ、すみません。返します! 返しますのでどうか金庫開放はご勘弁を!」
エチゴヤは余分に巻き上げた分を全部返還した。
親父は民衆から喝さいを浴びている。
あれ、俺達、海賊……だよな?
"神様の一言"
海賊とは言っても、昔の海賊は海域の支配者のような存在で暴れるというわけではなかった。武力も有していて、必要とあれば行使するだけで、平時は穏便な面々も多かったという話だ。
別に西欧に限ったものではない。
中世に日本海から黄海を暴れていた倭寇にしても、鄭成功の父親鄭芝龍などにしても平時は商売人だったと言う。交渉事がうまくいかない時だけ武力行使をしていたというわけだな。
海賊だって、毎日争いごとをしたいわけではない。暴れるリスクはあるし、仮にリスクはなくても腹が余分に減るだけだからな。
海賊イコール悪のイメージがあるが、国家だって他人のことを言えたものではない。中国などでは国家が塩等幾つかの商品を専売していたのだが、その値段があまりにも酷すぎて盗賊の方が良心的に販売していたという話がある。
ノルマン・コンクエストのような海賊が王朝を作った例もあるし、国家と海賊の違いというものももう少し相対化して考えてもいいのかもしれないな。
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