第31話 【番外編】スタンバイ位置
※注意:今回はリアル世界ではなく、ゲーム的ファンタジー世界の話です。
俺の名前は奥洲天成。
勇者として転生してきた俺は、早速魔王を倒すための準備……
「陛下」
「何だ、勇者テンセーよ」
「魔王城が駅を挟んだ向かい側にあるのですが」
「うむ。シンジュク駅西口側が人間界、東側のカブキチョウ城が魔王の城だ」
近すぎるだろ!
26話のように、魔王城を辺境に置いてくれよ!
「魔王軍は20話のような、ヤクザの事務所と考えれば、不思議ではなかろう」
くっ、経済力を身に着けた魔王軍か。
これはヤバイ。
とはいえ、とにかく東口に行ってみて、カブキチョウ城に足を踏み入れたところ。
「勇者の手入れだ! 出会え! 出会え!」
一斉に包囲されてしまった。
「あれー、テンセー。この前四天王の一味だったのに、今回は勇者なの? 馬鹿だねー」
「フフフ、四天王時代でも私に勝てる確率0.4%です。今は0.01%ですからそれほど違いはありませんね」
「敵……、倒す!」
「五人目の四天王など認めん!」
四天王までまとめて襲い掛かってきて、当然のように戦死した。
「おぉ! テンセーよ! 死んでしまうとは情けない!」
「勝てるかー! 四天王なんて、大体別々の場所で待ち受けているか、四人が合体して一人になるものだろ! 何で四人がかりでフルボッコされなければいけないんだよ。一人がカブキチョウ入り口にいるなら、もう一人はクヤクショ庁舎、一人はイセタン、最後の一人がネコビル前ってな具合に!」
「テンセーよ」
王様が真顔になった。
「魔王軍は暇ではないのだ。そういうことは勇者たるお前がやらなければならない」
「やらなければならない?」
王様はフウと溜息をついた。
「確かに、世間では魔王は最上階か最下層にいて、その前段階に少しずつ強い奴が待ち受けているのが定番と思っているのかもしれない。だが、な。そこには血のにじむような努力があるのだ。おまえはゲームをやっていて、読み込み時間やら宿屋での時間などを経験したことがあるだろう?」
「もちろん、あるとも」
「そうした時間に、勇者たちは魔王軍のスケジュールを調べ上げているのだ。一度の襲撃で全員を襲えるように。あるいは、勇者の抱える諜報機関が裏情報を流して、幹部達を集めたところで襲い掛かっているのだ」
「何だと? 裏でそんなことが行われていたのか? というか、国王の立場にありながら、勇者が魔王城を襲い掛かるなんて言い方をしていいのか?」
「そうだ。相手は世界を危機に陥れるような連中だぞ。我が国の諜報機関もフル稼働しなければならないのだ」
そうだったのか。
「だったら、俺のサポートもしてくれよ」
「うむ。ならば、魔王を討伐するための計画書を諜報機関に提出し、諜報機関局長と国防軍司令官、更には王であるわしの許可をもらうがいい」
「何!? 俺が計画を作るのか?」
「当たり前だ。戦うのはおまえではないか。当然、計画を立てるのもおまえだろう。それとも何か? おまえは、西口から指示を出すわしの命令を東口で聞くつもりなのか?」
ぐぬぬ。
古今東西、トップが現場にまで細かい口出しをするケースでうまくいったケースは皆無と言っていい。当然、俺の戦いに国王が関与してくるというのはロクなことにはならない。だから、王の言うことは正しい。
しかし、まさか計画書まで作って戦わなければならないとは。
「当然だろう? 作戦も抜きで敵地に突っ込むなど鉄砲玉ではないか? まあ、20話にはそんな勇者もいたようだが」
ということで、俺は深夜まで計画書を作成している。
四天王の下二人は馬鹿だが、上の二人は強いから、これはバラバラにさせなければならない。魔王は結局何者か分からないから、なるべく単独でいる時を狙いたい。
となると、予算は……。人員は……。スケジュールは……。
勇者の道は一日にしてならず。白鳥は水面下で足をばたつかせているという。
俺達の戦いはまだ、スタート地点にすら立っていない。
"神様の一言"
軍隊の組織表を見れば分かると思うが、一人の騎士の下には十人以上の下男がついているものだ。
勇者にしても同じだろう。
勇者のために諜報活動を行うもの、死んだ時に運搬する者(デスルーラ役とも言うらしい)、食糧などを供給する者と多士済々だ。
そうした者が必死で活動しているから、時に「相手はわざわざこちらを待っていたのか?」と疑うような、それぞれの階層で大ボスが待っている展開になっているというわけだ。
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