第29話 悲しきかな男の性よ
俺の名前は奥洲天成。
俺は、まあ、ちょっとした理由で死んでしまって、十字軍時代の欧州へと転生した。
『ちょっとした理由じゃないわー。SMプレー中に心臓発作で死んだなんて、女神暦300年、永遠の17歳の私でも聞いたことがない話ですー』
うるせえ!
俺はプロヴァンヌ伯アンリ様の従者として仕えることとなり、今のところ大過なく過ごしている。
しかし、その時が来た。十字軍への召集だ。
アンリ様は信仰心の強い人なので、十字軍自体は賛成だ。
しかし。
「あぁ! テンセーよ! 私が中東に行って、妻は浮気したりしないだろうか!?」
「うーん」
あ、ちなみに妻と言っているが、教会に登録している妻ではない。第8話でも触れていた愛人のことだ。教会の祝福を受けて結婚した妻のソフィー様は愛人のオットー伯爵とずっと出かけておられる。
問題なのは愛人のマリー様、ということだな。
この人は、従者の俺が見ても美人で、しかもかなり軽い人だ。アンリ様が十字軍に行って長いこと留守にすれば、まず間違いなく浮気をする。
「テンセーよ。伝説のテーソータイというものをつけさせたほうがいいだろうか?」
「いや、その……」
伝説というか、一説には十字軍に出かけていく男共が妻に対して、「出陣中浮気をしないように」ということで貞操帯をつけさせたというような話がある。鍵を夫が持っておけば妻は浮気ができないという訳だ。
「仮にそんなものをつけさせたとしましても、奥様が本気で浮気する気になったら、鍵屋を半殺しにして開けさせると思いますが……」
男だろうと、女だろうと、性欲に飢える連中を舐めてはいけない。彼らは世界の摂理を捻じ曲げるようなことを簡単にしてのける。それはもう、本当に痺れるくらいの話だ、憧れるかどうかは人によるだろうが……。
「ならば、どうすれば良いのだ!?」
「もう諦めた方が良くないですか? 活躍して戻ってこれば、仮に奥様が浮気していても戻ってくると思います。他の男と経験すれば、色々な技術を覚えるでしょう。レンタル移籍させて女として成長させるものと考えましょうよ」
俺はあまりに正直に言い過ぎたかもしれない。
「馬鹿ー!」
「ぐへっ!」
俺は強烈な右フックをテンプルに食らい、次いで左アッパーをチンに受けた。更に右ストレートを顔面に食らい、左右縦横に頭が揺れまくる。脳がグラグラで完全にKOだ。
「テンセー! 貴様はSMにしか興味のないホモかもしれないが、私は純愛に生きているのだ! もっと真剣に考えろ!」
ちょっと酷くない!?
真剣に考えているよ! 考えているから、浮気は不可避と思っているんじゃないか! 適当に流す気なら、「はい。これで大丈夫です」って気軽に答えるよ!
残念ながらアンリ様はシャレの通じる男ではなかった。
「そうか! マリーにつけるより、近づきそうな男全員につけさせればいいのだ! というか、私とマリー以外の全員を去勢すれば済む話だ!」
「ちょっと待てえ!」
中国とか中東ならありえるかもしれないが、それはヨーロッパでは許されねえ!
「もう、そこまで言うなら連れていくしかないんじゃないですか?」
「なるほど! 確かに連れていけば問題ないな」
マリー様もとんだ人に愛されてしまったものだ。
そう思うが、領内の混乱を招きたくないので、俺は黙っていることにした。
"女神の一言"
現代でも夫婦を分かつ戦場というものは多くあります。
会社の指示による単身赴任、親分の指示による刑務所入り、エトセトラ、エトセトラ。
中世では長期の戦役などがそれに該当しました。
その間の奥さんの浮気というのは、常に男を悩ませるものです。
兵士レベルでは実際に妻がついていったというケースもあったようですが、貴族になりますとそうもいきません。ということで、貞操帯なるものが使われたのではないかという説もあったようです。
真偽はさることながら、人間のすることですから、その程度のものは簡単に乗り越えられたものだろうと思います。
でも、まあ、男も遠征先で好き放題するわけですし、人のこと言えたものかという話になると思うんですけどねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます