第24話 中世環境問題

 俺の名前は奥洲天成。

 ゴミ処理清掃員として働いていた俺は、倫理観ゼロのゴミ捨てによって腐敗ガスと可燃性爆発物のせいで爆死してしまった。


「ちくしょう! こんな死に方があっていいものか!」

『荒れているな』

「当たり前だ! 現代人のモラルの無さと来たら! 昔の人は素朴だったというのに!」

『そうか。では、中世のトロワにでも転生するがいい』


 ということで、俺は中世のトロワで領主の執事として転生した。

 トロワは当時のフランスではまあまあ大きな街だ。市場も開かれるし、規模も大きい。中世のゲームがあったとすれば、拠点として非常にいいところだと思う。


 俺は市場の開催に備えて街を回っていた。

 と、川の近くに来たところ、悪臭が酷い。

「何なんだ、この悪臭は!?」

 俺が市民を問いただすと、どうやらこの付近には肉屋と魚屋があり、売れ残った商品を川に捨てたりしているということだった。

 川に捨てるのはいいのだが、毎日沢山捨てるため腐敗臭が街の方まで漂ってくるということであった。


 これではいかん!

 と文句を言いたいところだが、だからといって肉屋と魚屋に営業をするなとも言えない。

 現代なら、冷蔵庫や冷凍庫で多少日持ちするし、『3割引!』のシールを貼ればいいのだが、この時代ではそういうわけにもいかない。

 とはいえ、この臭いは酷い。以前、衛生問題の話をして体臭云々も触れたが、この悪臭が街に漂うのであれば、人間の臭いなど全く問題ないものと思えてしまう。


 俺は領主と相談することにした。

「これだけ悪臭が蔓延していては、市場を開催しても来客の鼻が曲がってしまいますよ」

 領主は不服そうだ。

「別にトロワだけに限ったことではあるまい。どこだってそうだ」

 いや、それはそうかもしれないけれど、生理現象に関する部分は耐えきれない。それに、仮にどこもそうなら改善することによって「あの町だけは違う」という評判を得ることだってできるではないか。

 俺が頑張って説得した結果、領主は「仕方ない」と重い腰を上げた。

「それならば、川の上流をさらうこととしよう」

 川の上流?

「そうすれば、水の量が増えて、腐った肉や魚を流していくはずだ」

 あ、あぁ、なるほど。

 捨てる量を調整するのではなく、川の方を強化するわけね。

 何だか、現代とあまり変わらない解決策な感がある。


"神の一言"

 メソポタミアや北アフリカは昔、肥沃な大地だった。しかし、気候変動もあったのだろうが、乱獲によって荒れ果てて現代は荒れ果てて紛争ばかり起こる大地となってしまった。


 イングランドでは船を作るために森がなくなったというし、手近な自然を使い切るというのは人間の……いや、過剰に増えた動物の得意技とでも言うべきものなのだろうな。


 街の環境も昔と今とで大きく変わるところはない。いや、むしろ、現代の方が衛生概念が発達して良くなったとも言えるだろう。飢饉が発生した場合には洋の東西を問わず街に死体が溢れかえるというような事態もあったわけだからな。

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