第25話 中世の気候変動
俺の名前は奥洲天成。
俺は……いつの間にか天界に来ていた。
『よく来たな。どこへ転生したい?』
「というより、俺は何で死んだんだ?」
『何だ、覚えていないのか? 無理もないか。忘年会でしこたま飲んでしまい、この寒い中で駅前で寝てしまって凍死してしまったなど、黒歴史もいいところだからな』
く、黒歴史過ぎる……。もう死んでいるけれど。
『そんなおまえには小氷河期の時代への転生をお勧めするぞ』
小氷河期……。
地球においては温暖期と氷河期が定期的に訪れているという。
人間が地上の支配者となった西暦以降の時代においても、極端な変化はないが、軽微な変化はある。軽微とは言っても、作物に大きな影響を及ぼすから人間にとっては大変なものだ。
「よし、行こうじゃないか」
しかし、小氷河期であると分かっていれば、何かしらの対応をとることはできるかもしれない。
ということで、俺は北ヨーロッパの僧侶として転生した。
教会のまあまあのポジション。意見を強く言えば受け入れられるような立場だ。
この時代の教会は、一般庶民にとって心のよりどころでもあったので、街の中では重要なポジションを示す。
俺は神から貴重な情報をゲットした。何年後が特に寒いか、というデータだ。
何故、年単位で寒くなることがあるのか。
幾つかの原因が考えられている。
例えば、大規模な火山の噴火などは一つ分かりやすい理由だろう。
火山灰が空高くまで舞い上がり、それが太陽光を阻んだりして気温が上がらなくなるというものだ。
他にもエルニーニョ現象による影響なども指摘されている。海面の温度が変わることで循環する水温、大気の温度が変わり、ひいては寒くなるというものだ。
ただ、詳細な原因は21世紀ですら解明されていないことである。しっかり分析するのは無理だろう。
「司祭様、昨晩大天使ミカエルが下りてお告げを下さりました。『来年は寒くなるピョーン! 気をつけろピョーン』って」
「ほほう。それは由々しき事態ですね」
むしろ、このくらいの理屈の方がいいのかもしれない。
俺の意見は、直ちに領主に伝えられた。
領主は40歳のナイスミドル。政務に熱心ないい男だ。
ただし。
「……来年は寒くなる、と申すのか? それは由々しき事態だ」
「はい。由々しき事態でございます」
「……それで、どうすればいいだろうか?」
「えぇ、どうすればいいでしょうか……」
いや、まあ、結局こうなってしまう。
例えば寒さに強い農作物などがあれば変えたりできるかもしれないが、そんなバリエーション豊かな農法をこの時代には期待できない。
仮に出来たとしても「来年は寒いかもよ」という理由で農夫たちが植える作物を変えたりするだろうか? 21世紀でもそんなことはできていないのである。
普段小麦を植えている連中が、寒そうだからと厳しい環境でも育つ芋系を育てたりするのか。それは難しい。
「城の空いているところではなるべく多くの芋を植えることにしよう。あと、服の生産を増やすくらいだろうな」
できることといえば、それしかない。やらないよりはマシという程度の話だ。
それでいざ実際に寒くなれば、「どうしてこうなった?」と上にいる者がやり玉にあげられたりするのだから溜まらない。
一年が経過した。
色々苦労はしたが、寒さにはうまく対応できた。領主が植えた芋が最後の食糧源となり、服を多く作ったおかげで領民達が凍死することもなかった。
迎えたクリスマス。
「わはは、今年はテンセー司祭のおかげで助かったわ。ほら、飲まんか」
「これはどうも。来年は少しは暖かくなるようですので、安心して過ごせそうです」
「それはいい。泰平万歳」
俺達は楽しくパーティーを楽しんでいた。
「あれ……?」
気が付いたら、俺は天界に舞い戻っていた。
『おまえ、本当に酒飲んで寒い中で寝るのが好きだな……?』
呆れかえった顔をした神が、俺の目の前にいた。
"神の一言"
ということで、19世紀に至るまでは地球は比較的寒冷で、時にグーンと寒くなることもあった。そうした時に飢饉などが生じたというわけだ。そこまで極端なものではなくても、漸次的な冷暖は常にあったわけで、スコットランドで葡萄が取れたりした時期もあったという。この時代などはフランスで葡萄を育てるのは大変だっただろうな。
ただし、これを読み切れればうまくいくかというと、本編のように中々難しい話ではある。天成が言うように現代でもうまく行っていないわけだからな。
また、本編には出ていないが、近年、民族の大移動と気候変動の影響を唱える学者が増えてきている。
ゲルマンの大移動しかり、チンギス・ハーンが大遠征に乗り出したのもモンゴル草原が寒冷化して食糧に支障をきたすようになったという見方も出てきているという。
とはいえ、これも「そういうことが起きます」と分かってはいても、何かが出来るかというと難しい。
正しい預言ができたとしても、それが解決に結びつくとは限らない。難儀な話だ。
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