第23話 中世とは何ぞや

 俺の名前は奥洲天成。

 豚になるという不遇の展開を経て、また神界に戻ってきた。


『おぉ、テンセー。最近、ループが早いな』

「誰のせいだっ!」

『……それはそうと、ちょっと困ったことになっている』

「何だ? 神が総出でワールドカップ決勝を見ていたことが誰かにバレたのか?」

『そうではない。おまえの前に来た転生希望者二人が同じく中世ヨーロッパ世界を希望していたのだ』

「ほうほう」

『そこで30年戦争中のドイツの農民に転生させようとしたのだが』


 30年戦争中のドイツの農民って、神聖ローマ帝国にも、帝国諸侯にも、デンマークにも、スウェーデンにも、フランスにも略奪されまくるめっちゃハードな世界じゃねえか。下手すれば北斗の拳の庶民達より悲惨だぞ。

 そんなところに送り込むなんて、二人組に恨みでもあるのか?


『奴らは、「17世紀は中世ではない。近世だ。神のくせに歴史解釈を間違えているのか」と言い出した』


 ほほう。

 確かに、時代区分で調べると、中世は5世紀から15世紀くらい。

 16世紀、17世紀は近世で、18から20世紀頭くらいまでが近代、それ以降が現代という扱いが多いような感はある。


 この話でも、ナイチンゲール時代の転生回があったが、あれなんかは『中世じゃねえだろ』というツッコミを十分承知したうえでのものだった。


 話を戻す。

 その二人は区分がどうこうというより、30年戦争中のドイツに行きたくなかったんじゃないかな。

『そうだ。結局、フス戦争中のボヘミアに送ったがね』


 ひでぇ。

 いや、まあ、そんなことを言いだしたら、中世でマシな世界をところを探す方が難しいかもしれんが。


『ただし、今後も中世がいつからどこまでというツッコミはありうる』

「今までは、なかったのか?」

『今までは、人間の区分に従っていたのだ。だが、この区分が生まれたのは半世紀くらい前だぞ? 今時の人間が第二次世界大戦は現代です、なんて思うか? あれは歴史だろ?』


 う、うーん、これまたちょっと問題発言な気がするが、分からんではない。

 作者の子供の頃は、現役世代が普通に第二次世界大戦を経験していたからな。しかし、今の現役世代は第二次世界大戦を直接経験していないだろう。


『だから、神界ではソ連が崩壊して以降を現代とし、それ以前から明治維新、ドイツやイタリア成立あたりまでを近代、中世はアメリカ独立とフランス革命以降にしようと考えているのだ』


「でも、中世と近世の境はルネサンスにあるというぞ。神からしても、ルネサンスはありがたいものだろう?」


『何故だ。ルネサンスで変わったものはほとんどないだろ。ターニングポイントといえる事件もないわけだし』


 ぶっちゃけるなぁ。


『とにかく、時が進めば、時代区分も変わるべきではないかとは思うのだ。最近の教科書には最新の研究成果も取り入れているという。それならば、いつまでも半世紀前の区分に従う必要もないのではないか?』

「まあ、あんた達の意見は分からんでもないが、それを強弁するのは面倒だからやめておこうぜ。それより俺はどこに転生するんだ?」

『歴史学者界の大物に転生して、時代区分を変えてきてくれ』


 転生先現代かよ!

 って、そこまでこだわらなくてもいいじゃないか!


"神の一言"

 ということで、ペトラルカ理論にドシンプルに従い、5世紀より前は古代、20世紀以降は現在、それ以外は全部中世という形で捉えることにする。


 だから、ナイチンゲールの時代も幕末もこの作品においては中世扱いだ。

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