第21話 中世版親ガチャ

 俺の名前は奥洲天成。

 はっきり言うが、俺は親ガチャに負けたと思う。今時、中堅商社のサラリーマン夫妻の子供なんて生きていくだけでも大変じゃないか。四六時中、やれローンがどうこう、保険料がどうこう。

 子供は親の顔色を見て育つということを全く理解していない。もう少し世情に長けた親に生まれたかった。


 そんな俺は不運にも、階段から転落して死んでしまった。

 まあ、あれだ。両親にとっては穀潰しが一人減ってせいせいしたのではないだろうか。

『のっけからダークモード満載だな。何に転生したい?』

 おぉ、神様。

「……希望はないな。現代は親ガチャで決まる。もう少し昔の世界なら、より公平な世界だったのではないだろうか?」

『随分悲しいことを言う男だな。良かろう、中世のガチャを味わってみるといい』

 こんなやりとりを経て、俺は中世に転生することになった。


 おぉ、胎児から始まるんだな。

 外の声も聞こえる。意識がある状態で外の声を聞けるなんて、神童モードじゃないか。やはり転生こそ至高、俺はこの世界で勝ち残るぞ。

 って、あれ、出られない。

 おい、ちょっと、全然出られないんだけど!?

 マジかよ? もう羊水が出ているから、外に出ないと呼吸も出来ないぞ。このままだと窒息してしまう!

 嫌だ、せっかく知識もあるのに、生まれる前にリタイアなんて……


 また、神界に戻ってきてしまった。

『お帰り。早かったな』

「早いっていうか、子宮口が開かないから出られずに窒息死だよ! 冗談じゃないって」

『まあ、昔は帝王切開もほとんどできなかったから、ちょっとでも異常があると即、死産だな。Rを引くくらいの確率で死産だったと言ってもいい』

「ちょっと酷すぎないか!?」

『私に文句を言われても困る。もう一度やり直してみようか』

「お、おう……」


 ということで、また胎内からスタートだよ。

 うん? 俺の横にもう一人いるぞ。

 おお、これは双子がいるパターンか。双子はいいなぁ。一番理解しあえているし、イエローカードを二枚貰っても、もう一人を身代わりに立ててレッドカードを免れることもできるし(善良な双子サッカー選手はそんなことをしません)。

 いや、でも、今回も母体異常で死産ルートもありうる。

 生まれるまで気を付けなければ。


 四か月が経った。俺達は「タ、タ、タ、タ、タタ」と声を掛け合いお互いに励まし合い、遂に生誕の日を迎えた。

「オギャア!」

 どうやら無事に生まれることができたようだ。もう一人も無事だ。

 俺達は中世双子の伝説を作るんだ。

「何だ、これは!」

 うん? 父親らしい男が怒っている。

「おまえは別の男とも関係をもっていたのか! 許さん!」

 うわー! 父が母を刺してしまった!

 って、俺達も? えっ、俺達も?


『お帰り』

「何で双子ってだけで殺されるんだよ!」

『どうだ? 中世の親ガチャは?』

「親ガチャというより、迷信その他が酷すぎてロクに生まれられねぇ!」



"神の一言"

 そういうこともままある。現代だってアルビノだから殺害されるとかあるだろう? 軽度障害で殺されることもあったし、飢饉の時代なら女の子というだけで捨てられる、男の子でも殺されることはあったわけだから。


 もちろん、個々のケースで不運極まりない話はあるのだが、生存率その他が圧倒的に違うことは認識してもらいたいところではある。

 生まれることができる、というだけでも本来は素晴らしいことなのだからな。

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