第15話 狼と人間
俺の名前は奥洲天成。
女神がワールドカップに夢中なため、引き続きハンターとして活動している。
最近、街の西側の街道が危ないらしい。
曰く、狼の集団が出て、旅人達が行方不明になるケースが相次いでいるということだ。
俺達ハンター達に何とかしてくれという話が来た。
「……はほー」
ガードナーさんが何か言っているが、空気が抜けて全く分からない。
連れて行っても、途中で倒れて病死するかもしれないから、置いていくしかない。
隊長、副長、マイケルと四人で出発した。
西の方にはうっそうとした森が広がっている。
中々に不気味な光景だ。狼が沢山住んでいても不思議はない。
しかし、そうではなかった。
一時間後、俺達は30人を超える盗賊達に囲まれていた。
「ヘッヘッヘ、たった4人でやってくるとは馬鹿なハンターもいたものだ」
リーダー格のちょっとイった目をしている奴がナイフを舐めながら言ってくる。その周りには毛むくじゃらの男達が大勢いた。
実際のところ、野獣の仕業と見せかけて、実は盗賊たちがいたというケースは少なくない。中世は森も多いし、行方不明者を森の奥深くに捨てれば分かったものではないからな。
日本だってそうだ。伝記上の鬼達は、実はその地域の人間達だったというケースが多かったらしい。
イップスで役に立たない隊長のアレクに報告を頼む。
シーザーには残ってもらうが、正直全くアテにならない。
俺達の実戦力は2人、相手は20人。
これは話にならない。
チートなんてない以上、俺達はもう終わりかもしれない。
……いや、一つだけ方法があるかもしれない。
「……盗賊たちよ。分かった、俺達の持っている財産を全て渡そう。ただ、死ぬ前に一つだけ願いを言っていいか?」
俺は観念した顔で言った。
「おお、俺達もそこまで鬼ではない。一つくらいは聞いてやろう」
「……これから言う呪文をお前達が唱えてくれれば、俺は天国に行ける。俺が教えた後、復唱してくれ」
そう言って、ゴニョゴニョと耳打ちした。
本当は羊皮紙にでも書いて渡したいのだが、盗賊やっているような連中が文字を読めるとは思わんからな。
奴らは首を傾げながら、復唱した。
「『サッカー観るしか能のない駄女神なんかにハンターにさせられて、可哀相になぁ。三流の女神でも、もうちょっとまともな仕事につけたはずなのに。五流の駄女神だわ、あいつは。わっはっは』……。何だこれは?」
『何ですってぇ!』
突然、雷が天を裂き、大雨が降ってきた。
「な、何だ? いきなり天候が……。うわぁぁ!」
『おまえ達なんか、アリクイに食べられるアリになってしまえぇぇぇ!』
「ギェェェェ!」
盗賊たちは全員消えた。おそらく、言葉通り未開の南米で、アリにさせられたのだろう。
死んでから転生させるのではなく、殺してから転生させるのだからとんでもない話だ。だが、今回は女神の不真面目さに助けられたと言ってもいいだろう。
しかし、俺達の戦いは終わらない。
世界にはまだ見ぬ狼達がいる。
俺達の戦いは、これからだ!
ご愛読ありがとうございました。
<完>
"天成の一言"
鬼、龍、狼、歴史上、魔獣の仕業にされてきた多くのことが実は人間の仕業だったという説もある。
結局、いつの時代も一番恐ろしいのは人間ということかもしれん。
ちなみに今後も続く予定だが、この話を入れることで、作者が途中で飽きた、若しくは不測の事態が起きて途絶えた場合でも「既に完結した作品」と主張するつもりらしい。
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