第14話 職業というもの

 俺の名前は奥洲天成。

 トラックにはねられて、天界に来たようだが……。


 随分と待たされている。

 うん? 奥から、何か音が聞こえるぞ。

『ボールを奪ったー、パスが前線に出たー、チャンスだー、ゴーーーーール!!!』

『すごーい! ナイスゴール!』


 ……女神め、また、仕事をさぼってテレビを見ているようだ。

「(ボソッ)使えねえなぁ、あの女神」


『……何ですって?』

 げっ、サッカー見ているくせに聞こえたのか? 

 あれか、自分のことだけ地獄耳ってやつか?

『……いい場所があったわ。今から、ハンターとして転生しなさい!』

 うわー!



 ……ということで、俺はどうやらハンターとして転生してしまったらしい。

 中世では街を少し離れると野生の狼が暮らしたりしていた。そいつらが、人の味を覚えたりして、街に近づいてくるのは望ましくない。もちろん、猪や鹿の水牛の仲間もいる。かなり古い時代にはヨーロッパライオンなんてのもいたらしい。

 後々には、上流階級が趣味としてのハンティングを行うようになるが、俺の転生した時代はそういう雰囲気ではないようだ。

 だから、動物の脅威に対しては俺達が街を守る必要がある。


 この街には俺を含めて五人のハンターがいる。

 だが、しかし……


「……ブルブル、ゆ、弓をもつと手が震えて止まらない」

 ……団長のアレクは、かつて仲間を撃ち殺してしまったことがあるらしく、今でいうならイップス状態。弓を手にした途端に、ダンスでも踊っているのかというくらい震えている。

「……僕は上品だからね、血なんてものを見るのが耐えられないのさ」

 副長のシーザーは精神が細いようで、血を見ると卒倒してしまう体質だ。

「て、テンセイだけには任せておけんのう……」

 この道80年の大ベテランのガードナー氏は、よぼよぼで外に出すのも大変だ。

「鶏とか狼って最高だよね♡」

 マイケルは戦力としては頼りになるが、動物と関わるあまり偏愛をきたすようになり、人間の女ではなく、動物の雌しか愛せない体質になってしまった。奴の家に行った時の衝撃ときたら……


 分かるか?

 俺は誰も頼りにできないということだ。仮に狼が出てきたら、一人で狼の群れに立ち向かわなければならないってわけだ。


 女神め……。

 陰口叩かれて、こんな厳しい環境に送り込むとは何という奴だ。


 俺は市長にかけあった。

「もうちょっと、ハンターを増やしてほしい」

 市長はにべもない。

「そうは言うがねぇ。皆、代々ハンターの家柄なのだから……」

「それだったら、冒険者気取りの連中とかどうだ?」

「冒険者!? あんなアウトロー共を雇うというのか? 冗談ではない!」

 そう、何だかんだで、昔の世界は今よりも保守的だ。

 冒険者というか、余所者なんて基本盗賊の仲間くらいの認識だし、実際そういう連中が多い。

「シーザーの息子が成人するまでは頑張ってくれ。あと、ガードナーさんの孫娘が沢山子供を産んだら、何人かハンターにしようじゃないか」


 昔の世界の連中は気が長い。



⚽⚽⚽

 尚、女神は朝から晩までサッカー観戦していますので、今回女神の一言はありません。

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