第13話 スペイン王は辛いよその3・人材編
フェリペ2世に転生した俺は、あまりの業務量に目が回りそうな思いになっている。
これではダメだ。何とかしないといけない。
そういえば、1回目(第3話)の後、女神が何か情報をくれていたな。
『エリザベス女王は権限の委譲が巧かった』
権限の委譲……
確かにそうだ。
毎日270件(年間0休時)も処理していたら、体がもたん。
ということで、信任しているホアン・デ・オヴァンドに財務管理をどうにかしてもらうよう任せることにした。
「陛下、帝国の財務管理には極めて高度な簿記の知識が必要でございますが、陛下も私もそのようなものを持ち合わせておりません」
「うむ、俺は数学の成績が2だったからな」
「成績が2?」
「あ、こちらの話だ。だが、放置しておくわけにはいかん」
「私、愚考しますに、上に立つ者に簿記の知識がないのは仕方ないのですが、そうした知識を持ち合わせる官僚を雇って計算させた方がいいのではないかと思います」
「官僚か……」
官僚制度を整えるのは大変だ。それくらいのことは分かる。
とはいえ、踏み出さないわけにもいかない。
21世紀から転生してきて、何もできませんでした、では情けなさすぎる。
オヴァンドは数人の会計士を連れてきて、国家の財政を計算しはじめた。
案の定、すぐに反対運動が起きる。
「陛下、陛下の配下共は最近、数字をこねくり回しているようですな」
「ああ、国家改善のために必要だからな」
「なりませぬぞ、陛下。奴らはユダヤ人と似たような者共です。数字になる悪魔のようなものを信じてはなりません。神の神聖なる教えに逆らうものです」
うおおお、自分の都合の悪いものを「神が認めない」というのは、どこか別の話でも見たような気がする。現代だったら、「それって貴方の感想ですよね?」とやりこめられるが、この時代、貴族や聖職者が言うことは、それすなわち真理となってしまうからな……。
反対運動は強いうえに、オヴァンドも体調不良でほどなく世を去ってしまった。
スペインが近代国家のスタート地点に立つのは、まだまだ先のようだ。
"女神の一言"
まだまだ先というより、フランコ政権が終わってようやく実現したのでは、と言っても過言ではないかもしれませんね。
今回の天成氏の苦労は、多少形を変えれば現代国家にもあてはまるかもしれません。
世界中の元首の中で、実務的な簿記会計知識がある人は数えるほどしかいないでしょう。フェリペ2世の時代と異なり、代わりを担う官僚はいますし、今は会計ソフトなるものもありますから、何とかなりますが、その数字に対する信用を本当に抱くことができるのか。
フェリペの時代は神でしたが、今にしても「政府は信用できない」エトセトラエトセトラとかで都合の悪い数字は信じない、あるいは統計そのものを信じない人達もいますからね。
電子マネーのように完全に履歴が残る世界でなければ、整った会計が実現されることはないのかもしれません。
いや、それを目の前にしても信じない人達はいるでしょう。
中世ではなく、人間社会の歴史が抱えてきた苦悩と言えるのかもしれません。
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