第12話 スペイン王は辛いよその2・業務量編

 俺は奥洲天成。

 今回も引き続き、スペイン王フェリペ2世として転生した。


 前回、当時の交通事情では連絡の行き来が大変だということを知った。つまり、どうやらイングランドの海賊を懲らしめるのは難しいらしい。

 ドレイクの成功をただ指をくわえて見ているだけというのは口惜しいが、できないことは仕方がない。できることからやっていこう。

 スペインが弱くなったのは他にも原因がある。

 まずはあちこちに敵を作り過ぎたことだ。キリスト教の代表としてオスマン帝国と地中海で交戦していた一方、ネーデルランドの独立戦争にも多額の出費をしていた。


 これらは非常に頭の痛い問題だ。


 イングランドのことは別としても、新大陸からの貿易も非常に大きな問題だ。これらも無視できない。


 全く頭の痛い問題だ。


 もちろん、宗教のことも無視はできない。間違っても新教に妥協するわけにはいかないというのがスペインの立場だ。ユダヤやイスラムも当然アウトだ。


 ……って、これ、全部俺がやるのか?


「……はい。陛下が神の名の下に、これらを全て自分で執り行うと言われたではありませんか」


 ということで、通常業務をエル・エスコリアル宮殿に、貿易関係の書類はセビリアに、軍事業務などはバジャドリーのシマンカス城に、これらを行き来して処分決裁するという毎日だ。


 やべーよ。俺、働きすぎだよ。

 仮に案件の90パーセントくらいを処理するとして、年に10万通の書類を決裁しなければならない。

 一日273件?

 休みなく働き通してこれだ。


 広い支配地域で様々なことが起こる。歴史知識があれば改善が図れるものは少なからずあるはずだが、あまりにも仕事が多いのでそんなことを考える余裕がなくなってくる。

 言ったら何だが、何も考えずただハンコを押すだけの無能上司でも一日270件は簡単ではないぞ。

 フェリペ2世、もしかして天才だったんじゃないのか?


 一つだけ明らかなことは、スペインの未来は暗い、ということだ。



"女神の一言"

 国王の大権は神から授かったものですから、あんまり他人にホイホイ任せるわけにはいきません。と言って、全部自分でやろうとすると、フェリペさんのようなことになってしまいます。


 権限の委譲というのも非常に重要になってくるわけですが、現代のように根拠となる法律がないわけですので、任せたら全部奪われてしまったというようなことも多々出て来ることになります。勢力争いやら何やらというものがありますので、調整力やら人間力やら人材鑑識眼が必要になってきます。


 そもそも、知識があれば何ともなるわけではないのは現代でも明らかかもしれません。優れた学者がその範囲の大臣などをやっているケースはそれほど多くないですからね。

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