第10話 【番外編】RPGゲームの租税体系

注意:今回はゲーム的なファンタジー世界であり、歴史とは関係ありません。


 俺の名前は奥洲天成。

 今回、俺はゲーム的なファンタジー世界にやってきた。


「とりゃあ!」

 エンチャントフレイムのソードが、スライムを切り裂く。

 俺は冒険者ギルドの依頼を受けて、魔物の討伐に向かっていた。

 その過程でスライムの集団と出会い、打ち倒したところである。

「テンセー! 宝箱があるよ!」

 仲間が宝箱を見つけたらしい。嬉しそうに叫ぶ。

「おお、すぐに開けてくれ」

 俺の指示でシーフが宝箱を開いた。

「やったぜ。レアアイテムの"スライムの核"が出てきた」

「おお、スライムの核は錬成アイテムとして欠かせないな!」


 喜ぶ俺達。


 しかし、ちょっと待て。

 何で、このスライムはおあつらえ向きに宝箱を持っているんだ?


 俺が過去にプレーしてきた大半のRPGゲームでは、魔物は当たり前のように宝箱を残してきた。

 だが、何故、魔物はわざわざこんなものを持ち歩いているのだ? 使えるものなら箱なんかに入れずに自分で持っておくべきだし、使えないものをわざわざ箱に入れて持ち歩いているのは変ではないか?

 それに、何で魔物の所持金は種族によって決まっているのだ?

 これは不思議だ。

 謎を解明するため、我々はアマゾンへと飛んだ。


 アマゾンの奥地で、俺は伝説の経営者ジェウ・ペゾスと面会することに成功した。「アマゾンは流域も最大、流通も最大」が彼の口癖だ。


「どうして魔者達は宝箱を持っているんだ?」

 魔物自体はスライムからダークドラゴンまで千差万別なのに、持っている宝箱は規格が統一されている。おそらく、宝箱を流通させているのはアマゾンだろう。

「オー、アナタ、イイトコロニキヅキマシタ」

 ペゾスは恐るべき事実を、俺達に聞かせてくれた。



 RPG世界には大体、世界を支配しようという魔王なり何なりかがいる。

「魔王たるもの、それにふさわしい城を持たねばならぬし、料理もうまいものが必要だ」

「しかし、魔王様。人間から奪える財産にも限界があります。だからといって同じ魔物達から奪おうとすると、龍族やら何やらが独立しかねませんし」

「ぐぬぬぬ……」


 苦悩する魔王軍の首脳。

 だが、奴らはさすが魔王だけあって、人間ではできないような解決策を思いついたらしい。


「よし、全ての魔物に宝箱を持たせろ。その中に奴らの財産を詰めさせるのだ。宝箱に入っていない財産は当然どの魔物のものでもない。すなわち、魔王のものだ」

「おぉ。それは妙案です。宝箱に財産を入れさせれば、税金の徴収もしやすいですな」

「待て! 貴様、今、税金と言ったな!?」

「はい。それが何か?」

「よし、徴収しやすい税金制度を作ろう! 魔物の種別ごとに保持できる財産を決めるのだ! スライムなら1ゴールド、ダークドラゴンなら3400ゴールドという具合に。そうすれば、我々の税務署員が徴収する税金は固定されて計算しやすい」

「な、なるほど」


 魔王のアイデアは税金を徴収するには画期的ではあったが、一つ大きな問題があった。


「魔王様、持てる財産を決めてしまったことで、ドラゴン等エリート種族が働く気をなくしてしまっております」

 そう。金持ちのドラゴンなどが「これ以上働いても、俺の金にならないし」と働く気をなくしてしまったのだ。ひと昔前の社会主義国のような事態になってしまったのである。

「ドラゴン共は呑んで寝て暮らし、誰も人間の街を襲おうとしなくなりました。『自分の持ち物が増えるわけでもないのに人間を襲って、反撃されてケガでもしたら損だし』、と嘆かわしいことを言うドラゴンも増えてきています」

「ぐぬぬぬぬ」


 魔王はしばらく考えていた末に、別の方法を考え出した。


「分かった。それでは、宝箱に何個かアイテムを保持することも許そう。税金はゴールドで徴収するから、高価なアイテムを持っておけばよい。そのうえで少しだけアイテム税を取ろう」

 こうして、種族ごとにゴールドは確定。他は資産で持てという魔王税法が制定された。

 ドラゴンもスライムも、優秀な奴らは財産を増やすために人間たちを襲い、奪ったゴールドのうち余った分でレアアイテムを買い、持ち続けている。


 そして、魔王の税務署員は年に一度、魔物の宝箱を開けさせ、税金を徴収しているという。



「……イジョウガ、マモノガタカラバコヲモツリユウデース」

「何ということだ。そんなシステマティックな理由があったのか。しかし、宝箱で持たせると、俺達冒険者やら勇者が回収もしやすいというのに」

「ソレハシカタアリマセン」

 ペゾスが言うには、人間だって自分達の便利さを考えて街を作っている。例えば便利な道路網なんかは、敵に使われることもありうるが、そんなことを考えて道路を作っていないということだ。

 魔者達も頑張っているのだな、俺は密かな感動を覚えた。



"女神の一言"

 お金の徴収となりますと、一番真っ当なはずの国家よりも、ヤクザとかマフィアの上納制度の方がしっかりしているという話なんかもあります。


 ヤクザやマフィアよりも更に悪い(多分)魔物達がよりしっかりした上納制度を作ったとしても不思議はないですよね。


 カードゲームはもちろん、コンピュータゲームでもモンスターナンバーが存在したり、あるいはエンカウントが調節されていたりします。日本のマイナンバーシステムより魔物のナンバーシステムの方がしっかりしているのかもしれません、なんちゃって。

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