第5話 溺愛とお金の話
俺の名前は奥洲天成。
……段々、この前振りすら面倒になってきた、と作者がぼやいているが、一体何のことやら。
トラックに撥ねられて、女神の前に来た。
『それでは今回は、令嬢を溺愛する地方領主にでもなってもらいましょうか』
「今回は……? あと、何で令嬢を溺愛する、までついてくるんだ?」
『……もしかして、
「違うわ! 露骨に引いた態度するな! 昨今の風潮だとそういうのだってダメなんだぞ!」
『ハーレム作れるほどの大金持ちではないですよ』
「いや、そういうわけではなくて。ああ、もういいよ。令嬢でいいから、さっさと派遣してくれ」
『それでは、行ってらっしゃーい!』
ということで、俺はドイツの地方領主に転生することになった。
転生した自分の姿を鏡で見ると、中々の男前である。間違いなく前世よりカッコよくはなった。
周囲から聞いて、今の時代を確認するに15世紀くらい。モンゴルは去り、十字軍は終わり、まだトルコの圧力はそこまでではない。もちろん、フス戦争の影響だったり、ポーランド情勢などがあるから、完全に平穏というわけではないが、比較的平穏だ。
となれば、地道に色々改善していって、一歩先を行く世界を作るのもアリじゃないか? 令嬢とウハウハはまだ早い。いや、令嬢とウハウハするにしても、資金を蓄えておくのがいいんじゃなかろうか。
所得倍増くらいは実現させて、素敵な地方を作って、庶民からも感謝される俺の方が、令嬢もベタ惚れしてくれるだろう。
うん?
ハーレムがどうこう言っていた前話と全然性格が違うじゃないか、という変な声が聞こえたぞ。
一体何のことだか、さっぱり分からないな。
ということで、10か年計画を立ててみたぞ。
①文化レベルの高い人間を集める
②彼らの弟子たちの副業として学校を作り領民の識字率向上
③教会とうまく折り合いをつけつつ一部の産業革命を実現化
④次第に色々なものを高機能化させて勝利!
これなら、じっくり地に足をつけた改革として行けるのではないか?
と思ったら、部下達が全員、醒めた目をしているな。
「あ、いや、侯爵様の考えに反対というわけではないのですが、それで果たして領内にどれだけの金が流れるのか微妙ですので」
「どれだけの金? つまり、具体的な成果ということか。それはまあ、領民全員が三食寝るところ家があって不自由なく暮らせるくらいには……」
全員の目が更に醒めたものになった。
「侯爵様、ドイツ中の富を集めたとしても、そんなことは到底不可能だと思いますが、侯爵様は周辺全員を敵に回して我が領内だけ繁栄させようというのですか?」
「えっ、ドイツ中の金を集めても……?」
そんな馬鹿な。
俺は納得できなかったが、部下達は領内を見れば一目瞭然だと言うので見て回ることにした。
想像以上に酷いものだった。
社会がおかしい、というわけではない。ただ、世界の貧困国の農村とでも言うのだろうか。とにかく何もない。テレビやスマホがないのは当然としても、本とかそういう娯楽になるようなものがないし、子供も必死に働いてようやくという状況だ。
ドイツ中がこうだとすると、確かに、何かを良くしてどうなるというものではない。地中を掘ったら石油が出てきたとしても、この世界ではそこまでの富にはならないだろう。
金が出てくれば話は変わるかもしれないが……
「侯爵様、あの奴隷のようにこき使われている娘は中々綺麗ではないですか? 一つ、救い出して溺愛されるというのはいかがでしょうか?」
現実を動かせないことを知った俺にできるのは、彼女を救うことくらいなのだろうか。
"女神の一言"
世界が裕福になってきたのは19世紀後半からでして、それまでは世界中極貧でした。
18世紀の平均年収は500ドルくらい。2000年の12分の1だったそうです。
一時期、日本が年収200万円社会になるという話もありますが、中世は年収50万円、30万円社会です。
世界中が今のサブサハラ地域のようなものと考えても構わないかもしれません。
更にこの状況というのは実は紀元前くらいからそれほど変わりがなかったと思われています。つまり、人類は2000年くらい同じような貧乏な中で生活をしていたわけですね。
従って、こういう世界で金持ちになるには強奪しかなくなるわけです。
ですので、19世紀後半くらいからどうして人類の収入は増えてきたのか。正確には他所の地域を貧乏なまま置いておいて発展できる地域が出て来るようになったのか、ということですね。
これは一つの要素にはまとめられないと思います。
中世から近世、近代にかけて世界の色々な価値観が変わってきて、その中でようやくうまい体制を見つけて、それらと並行して産業革命が起こって、収入が増えてきて現代にいたるようになりました。
天成が10か年計画をあげましたが、それではまだまだ生ぬるくて50年、100年くらい必要なのだろうと思います。そうなってくると計画というよりも道を過たないことの方が大切になってくるかもしれませんね。
そうなってくると、みんな、こうなるはずです。
変に何かをするよりは楽しむ方がいいんじゃない?
お偉い貴族が令嬢を溺愛していると、「他にやることはないのか?」というツッコミがあるかもしれません。
ですが、実は彼らの方が正しいのです。
他にやることなんてないのですから。
ただ、お偉い貴族が何不自由ない生活をさせてくれる、という部分には突っ込みありかもしれません。皇帝ならともかく、少々の貴族だと思うようにお金が使えないのは二話でも見た通りですからね。
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