第46話
翌日5月22日、正午過ぎ。天気は雲ひとつない
午前十時に始まった交流会は、奈緒たちスタッフの運営の
駅前の広場には俺の想像をはるかに超える数の客が集まっている。
交流会のために足を運んだ客もいれば、通りがかりに興味引かれて足を止めたというような客もいる。
客層は主にファミリー層だが、俺たちのような学生も多い。
たこ焼きやわたあめを売る縁日のような屋台もあれば、手作りのアクセサリーやバッグを並べる露店もあり、バラエティーに富んでいる。
舞たちが参加するステージイベントはあと30分ほどで始まる。
本番を前に俺たちアニメ研究部は、気を紛らわせるため屋台を見て回っていた。ちなみに部活が休みな浅川も駆けつけてくれた。
舞、あおい、愛梨の三人は、美咲さんお手製のステージ衣装の上にベンチコートを羽織っている。三人とも時折ステージをチラチラと見て落ち着きがない。
「声が出なかったらどうしましょう?」
不安でいっぱいのあおいは、さっきから目が
「大丈夫よ、わたしたちあんなにたくさん練習したんだもん。それに三人いるから一人くらい声が出せなくても平気よ」
「いや、平気ではないだろ。あおいのソロパートは3人の中で一番多いし」
「なに空気読めないこと言ってるわけ? 今のは大丈夫って励ますところでしょ。余計にあおいを不安にさせるようなこと言ってどうすんのよ。あんた、やっぱりプロデューサー失格だわ」
俺が一言失言すると、愛莉からはいつもその十倍は文句が返ってくる。
この様子からして愛莉は心配なさそうだ。
「ラララ、ラ、ラ、ラ♪ ここのとこの歌詞って、何だったっけ?」
舞があおいのパートのメロディを口ずさむ。自分のパートでないとはいえ、あれだけ横で聞いているはずなのに覚えていないなんて大丈夫だろうか。
「そこは、『ふたり、並んで』だ」
舞たちに向かってシャッターを切っていたカメラマン浅川がさらりと正解した。
「そうだ、それそれ!」
「いや、浅川は練習に参加してないのに何で覚えてるんだよ?」
「あおいが教室で歌ってたの、前に一回聞いたから」
何てふざけたことを言いやがる。
英語ペラペラの次は、記憶力抜群ときたか。
おまけにサッカーもできるなんて、神様は浅川
「だって、私は歌もダンスもどっちも必死に覚えなきゃいけなかったんだもん。あおいと愛莉とはそもそもスタートラインが違うんだよー」
舞はほっぺを膨らませて抗議する。
たしかにそれは舞の言う通りだ。
あおいは中学のときから合唱部で活躍してきた。
愛莉は声優学校やメイドカフェで場数をこなしている。
それに比べて舞は、歌や踊りの経験値で言うと俺と同じくらいだから、舞の気持ちはわかる。
「でも緊張しているようには見えないぞ」
「これでも緊張してるんだよ」
「それにしてはリハのとき堂々としてましたね。わたしや愛莉さんは恥ずかしがって衣装着てステージに立ってたのに。舞さんだけ着慣れてる感じでした」
たくさんのレースがついたノースリーブの白いミニ丈ワンピースは、街で着るには少し勇気がいるくらい、華やかでインパクト抜群だ。
「舞は、人に見られるのには慣れてるからな」
「こら」
「痛い、痛い」
舞は俺の失言を責めるように、すぐさま俺の頬をつねってきた。
俺と舞の様子を見ていた他三人の頭からハテナの文字が浮かぶ。
三人は舞が人気コスプレイヤーであることを知らない。
舞にコスプレ趣味があることは、その産みの親である明日香先輩、衣装からこたつまで提供してくれる美咲さん、そしてあの
「緊張してるときは、掌に指でこう書いて飲み込むと良いって、日本のおばあちゃんが言ってたぞ」
浅川は帰国子女なだけで、両親は日本人。
だから『日本の』おばあちゃんと強調した呼び方をするのは違う気がするが、それ以上に掌に書いている文字が『入』な方が気になる。
「なるほど・・・入る、入る」
ボケーっとしたあおいは『入』を書いては飲み込むを繰り返す。
入魂の意味であれば問題ないとするか。
そこにスタッフTシャツを着た奈緒が、バインダーとスタッフ同士で連絡用に使っていると思われるレシーバーを携えやってきた。
「アニメ研究部の皆さん、あと10分で出番なのでステージ裏にお越しください」
てきぱきとスタッフ業務をこなす奈緒は、一段と大人っぽく見える。
「ちょっと、どなたですか、この綺麗な方は」
浅川が目をハートにさせ、奈緒に迫る。
「会長の孫娘だそうよ」
「それはそれは、お嬢様。ここでワタクシと出会えたのは奇跡でございますね」
「愛莉、話をややこしくするな。奈緒と言って、商店街の会長の孫娘。俺の中学の同級生だ。奈緒、一緒にステージの方に来てくれるか? 音響のことで最終確認したくて」
「オッケー。じゃあ、皆さん、行きましょうか」
米国
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