第44話

俺たちアニメ研究部は、ゴールデンウィーク返上で練習に励み、中間考査も何とか乗り切った。何かに打ち込んでいる時は、時間があっという間に過ぎていく。気がつくと、交流会直前になっていた。


5月21日、交流会の前日。土曜日の昼。

俺たちは、翌日の交流会に備えて駅前の会場を訪れていた。

目的は二つ。舞台の下見と奈緒たち運営の手伝い。


奈緒は過労で倒れたことで、家族からスタッフを辞退するよう言われたが、奈緒は最後までやり切りたいと、スタッフ続投を家族に訴えたそうだ。

今は、俺の十メートル先のテントの中で備品の点検をしている。

俺は奈緒が今日も無理をして倒れないか心配になり、奈緒に話しかけに行った。

「お疲れー」

「あっ、お疲れ! いよいよ明日だね。準備は順調?」

そう言って近くのドリンクサーバーで紙コップにお茶を注ぐと、俺に手渡してくれた。あくまでもスタッフとして参加者の俺たちへの気遣いを忘れない。

俺はそれを「ありがとう」と受け取り、

「まあやるしかないという感じかな」

と、曖昧な返事をした。

室井のアドバイスのおかげで一応形にはなったものの、俺たちは所詮素人のアイドルグループに過ぎない。正直、俺たちのパフォーマンスがどう評価されるか、自信がなかった。

「楽しみにしてるよ。宮前くんたちの発表」

奈緒の視線の先には、ステージの前にパイプ椅子を並べる舞、あおい、愛莉がいる。誰が横一列椅子を早く並べられるか競い合っているようだ。

俺は本番を翌日に控えて落ち着かない気分でいたが、いつも通りの舞たちを見て肩の力が抜けた。

「ちなみに私は宮前くんと同じで舞ちゃん推しだよ」

奈緒は、俺が舞を意識しているとでも言いたげに、悪戯いたずらっぽい目で俺を見てきた。

「俺は幼なじみってだけで、別に舞しじゃねぇし。あいつらのことは対等に見てるよ」

俺はあいつらのプロデューサーだ。そう反論しておくのが正解だ。

「なーんだ。結構二人はお似合いだと思うけどな」

「そんなことないぞ」

 奈緒とこんな話をしている自分が不思議だった。

 半年前奈緒に振られ、もう一生奈緒とはまともに話せないと思っていた。けれど、月日は流れ、環境が変わって、振られた記憶はもう思い出に形を変え、俺を煩わせることは無くなっていた。

 奈緒と普通に友達として話せていた。そんな自分になれたのが意外だった。

人はこうやって強くなっていくのかもしれない。

「というか、お前は具合大丈夫なのか?」

「具合? それならすっかり平気よ」

奈緒は腰に手を当て、胸を張って答えた。

「一ヶ月前倒れたとき、わたし、何でも自分でやろうって張り切り過ぎちゃってた。だから、最近は意識的に人を頼るようにしてる」

「それなら良かった。俺もアニメ研究部で活動してて、同じようなこと感じたんだ。俺一人が頑張っても、舞台は完成しないんだ。実際にステージでパフォーマンスするのはあいつらだ。俺の役目は、あいつらのやる気を引き出し、協力させ、意見を聞いて楽曲を完成させること。俺はさ、みんなにも見てもらいたいんだ。舞の元気を、あおいの美声を、愛莉の迫力のダンスを」

「宮前くん、変わらないね」

「え?」

「好きなものを熱く語る、その姿勢。中学の時、私によく好きなアニメの話してくれたじゃん。あの時とおんなじ顔してる」

と、奈緒は俺の顔を見てくすっと笑った。

「また、俺、引かれた?」

ついつい熱く語ってしまい、奈緒に敬遠されるのではないかと、意識して真顔を作る。

「またって何が?」

「アニメの話してて、俺ウザかったんだろ? だから振られたんだろ?」

「何の話?」

奈緒の瞳は驚きと疑問で満たされている。

「?」

何かがおかしい。

奈緒と話が噛み合わない。

二次元美少女好きが原因で、俺は奈緒に振られたのではなかったか。





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