第41話

 説明会は、前半30分が主催者側から当日についての説明、後半30分が参加者からの質問で、一時間ほどで解散となった。

 会が終わって、テーブルやパイプ椅子を片付けるのに人手が足りなそうだったので、俺とまい奈緒なおたちスタッフの手伝いに入った。

「ありがとう。とっても助かった」

作業が一通り終わり、鞄を持って会議室を出ようとすると、奈緒が俺と舞にお礼を言いにきた。

「いや、大したことないよ。それにしてもこれだけのスタッフで運営するのは、大変じゃないか?」

奈緒、奈緒のじいちゃん含めてスタッフは十名ほど。説明会で聞いた内容からして、当日は駅前の広場に屋台やステージが設置され、大勢の客が集まることが予想される。交通整理や荷物の運搬など、とてもじゃないが十名ほどのスタッフで回せそうにない。

「当日は大学生のボランティアにも来てもらうから何とかなりそう。というか毎年何とかしてるって感じかな? どこも予算は年々減ってきてるから」

『どこも』と言うからには、他の商店街のふところ事情にも詳しいらしい。さすが商店街会長の孫。長年交流会に携わってきただけある。片付けの途中、奈緒は年上のスタッフからあれこれ質問されても、さっと答えられていた。こんな立派な孫娘がいて、奈緒のじいちゃんはさぞや鼻高々だろう。

「はじめまして、諸星もろほし舞です」

隣にいた舞が奈緒に向かって礼儀正しく挨拶をする。

「こちらこそはじめまして、私は赤木あかぎ奈緒です。宮前くんとは中学の同級生なんだ。舞ちゃんは、宮前くんの幼なじみなのよね?」

「は、はい」

舞は奈緒と同い年なのに、奈緒があまりにしっかりしているからか、珍しく緊張した様子。

「そうだ! 二人ともこの後は暇?」

良い考えでもあるというように、奈緒が俺と舞の顔を交互に見つめる。

「俺は特に何もないが」

「私も大丈夫」

「よし! じゃあ決まり。ここにちょうど向かいのファミレスのお食事券が3枚ありまーす。手伝ってくれたお礼するね。一緒にお昼食べよう!」

俺と舞の目の前に差し出された紙には、メニューの写真がっている。

「そんな、別にいいのに」

俺が遠慮えんりょしていると、

「いいの? ありがとう! わあ、しかもオムライスセット、季節のフルーツパフェ付きじゃん!」

さっきまでの大人しい舞は一瞬でどこかへ行ってしまい、大好きなものを前に目を輝かせるいつもの舞が帰ってきた。

 そして、舞と奈緒は女子どうし肩を並べて楽しそうにしゃべりながら、俺を一人残して先に行ってしまう。

「ちょっと、お前ら、俺を置いてくなよ」

俺は二人の背中を追いかけ、階段を急いでけ下りる。

 初めて会ったばかりだというのに、一体何の話で盛り上がるというのか。女子とは不思議な生き物だ。女子の生態についてなら、レポートがたくさん書けそうだ。


 ファミレスに到着。スマホで時計を見ると、午後一時過ぎ。

店内は日曜ということもあり、まあまあ混んでいる。

俺たちはタイミング良く、すぐに店員に席に案内してもらえた。

 四人掛けのボックスシートに向かい合う形で舞と奈緒が座った。

 女子二人、男一人で外食するとき困るのは、男がどちらの女子の隣に座るかだ。

 俺は舞の隣を選んだ。奈緒の隣は気まずいし、今日は俺と舞はセットのようなものだ。至極最適解。

 お食事券は三枚ともオムライスセットだったので、メニュー選びに時間はかからず、約十分ほどで、出来立てほやほやの美味しそうなオムライスがテーブルに三つ運ばれてきた。

「お前は、ほんとオムライスが好きだな。先週もメイドカフェでパフェ頼んどいて、結局オムライスも追加で食ってなかったか?」

「オムライスなら毎日食べても飽きないもん」

舞は歌うような口調で、嬉しそうにオムライスを頬張ほおばる。

「メイドカフェ行ったの?」

セットで付いてきたサラダを食べながら、奈緒が興味津々に尋ねる。

「ああ、そうなんだ。しかも俺は昨日からそこでバイトすることになった」

「どういうこと? 聞いてないんだけど!」

舞は驚きのあまり、オムライスでむせ返りそうになる。

「言ってないから当然だ。部活の相談をしに昨日室井さんを訪ねた話、さっきしたろ? 相談に乗る代わりに店で働いてほしいって頼まれてな。アキバにタダで行けるのありがたいし、バイトしてみることにした」

厨房ちゅうぼうとかってこと?」

奈緒が、外し忘れていた名札のストラップを首から外しながら、訊いてきた。メイドカフェでバイトと聞いて女装して働かなければいけないと勘違いした俺と違い、至ってまともな思考回路だ。

「厨房以外にも重たい荷物運んだり、買い出し行ったり、何でもさせられるみたいだ」

「いいなぁ、楽しそう。愛莉と一緒に働けるも羨ましい」

「愛莉って?」

「俺たちと一緒に部活してる、減らず口叩いてばっかのギャルだ」

「今言ったの愛莉にそっくりそのまま伝えとくね」

「やめてくれ。あいつの機嫌一度損ねると、リセットするのに一苦労なんだから」

そんな俺と舞のやりとりを前の席で見ていた奈緒が、

「二人ともさすが幼なじみだね。息ぴったりじゃん」

と言った側から、

「「どこが?」」

とハモってしまう俺と舞だった。

「宮前くん、中学の時と違って明るくなったのは、舞ちゃんのおかげなんだね」

「やっぱり陵、暗かったんだ?」

「やっぱりって何だよ。別に舞のおかげじゃなくて、元から俺はこういうやつだったよ」

「そうかな? 私が宮前くんとの交際を断った後、宮前くんずっと元気なかったから」

にこやかに俺との過去を暴露した。その表情から察するに本人は何の悪気もない。だからこそタチが悪い。

「…」

「…」

奈緒は大人と話せるコミュニケーション力を持つ一方、時々爆弾発言してしまうことがあることを俺は忘れていた。よく言えば正直、悪く言えば言葉の刃を容赦なく振るう。

「ちょっと、わたし、お手洗い行ってきまーす」

凍りつく俺にさらなるダメージを与えないようにするかのように、舞はそっと席を離れた。



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