第33話
全員で歌詞の練り直し、振り付けを考えていたら、いつの間にか最終下校時刻の5分前になっていた。俺はみんなに荷物をまとめて先に校門を出るよう促し、一人、部室の鍵を返しに職員室に向かった。
この学校は最終下校時刻までに部員全員が校門を出ていないと、ペナルティを与えられる。ペナルティ2つで1週間の部活停止。
既に俺たちは1ペナルティ貰ってしまっている。
この切羽詰まった状況で、1週間も部活ができないのは大きな痛手だ。
校門では、しかめ面した体育教師が腕組みして立っている。
その側を、俺は息を切らして駆け抜ける。残り五秒でアウトだった。
「ふぅー、死ぬかと思った。入学してから一番のピンチだった」
額に汗かきながら校舎を振り返ると、俺のすぐ後ろを走っていた男子生徒が体育教師に捕まったところだった。これから説教タイムだ。
一方、俺同様、間に合った生徒たちは、安堵の表情を浮かべ、駅の方向に向かって歩き始めた。
校門を境に天国と地獄だな。そんなことを考えていると、
「陵、おつかれさま!」
と、花壇の脇から舞がひょっこり現れた。
「舞、もしかして待っててくれたのか? 先に帰ってても良かったのに」
俺が意外に思ってそういうと、
「愛莉とあおいは急いでるみたいだったから、先に帰ってもらった。私は急ぐ用はないし、久しぶりに陵と話したかったし」
と、舞が上目遣いで答えた。
「おう、そうか... なんか意味深だな」
「別に告白とかしないから安心して」
「そんな期待してねぇよ」
実はちょっと期待したりした。
「告白」という言葉だけで変に反応してしまう青二才。
どちらからともなく駅に向かって並んで歩き出す。
「舞、最近はコスプレ大会出てるのか?」
「何その『最近は学校の勉強にはついていけてるのか?』的な質問。陵は私のお父さんか!」
舞は俺の発言がツボにはまったのか、肩を震わせて、大きく笑い出した。
「そっちの方は何も問題ないよ。相変わらず美咲さん全面協力の元、毎週末どっかに出没してまーす」
と、笑顔で俺の背中を叩いた。
「それなら良かった。俺が頼りないばっかりに、舞にも迷惑かけてたら悪いと思って」
「陵、随分と大人になったね。そんなこと考えてるなんて」
「うるせぇー。まあ、高校生だしな。小学生から変わってねぇ方が怖いよ。お前の方が大人になったと思うよ」
俺は無意識に舞の顔から胸元に視線を落とした。
「うわっ、陵ったら今、私の胸見てたでしょ? えっち!」
舞は顔を赤くし、リュックで体の前面を覆い隠した。
「み、見てねぇよ。自意識過剰なんじゃねぇの?」
俺は動揺を悟られまいと、遠くを見つめ、無表情に徹する。
舞とは小学生の時、たわいもないことで言い争っていた。だが、ヤングアダルトな話題は皆無だったが故に、こんなときどう答えたものかと反応に困ってしまう。
会話の空白を埋めるべく、
「そういえばさ、舞、今週の日曜は暇か?」
「日曜は昼なら空いてるけど」
「さっきの交流会のことだが、今週の日曜11時から、参加者向けの説明会があるそうなんだ。舞、暇だったら付き合ってくれよ」
「いいけど、そういうのは部長のあおいが行くもんじゃないの?」
「俺もそうあおいに言ったさ。あおいのやつ、なんかまた家族との用事があるとかで、俺に押し付けてきやがった」
「そうなんだ。いいよん、付き合ってあげても」
舞は足元に視線を向けたまま、ノリ良く返事した。
俺にはさっきから舞が何に夢中なのか、聞かなくてもわかってしまう。
歩道の縁石ブロックだけ歩き、それ以外のところを歩いたら死んでしまうとか、小学生みたいなカオスなルールを発動させているのだ。
ふと後方に目をやると、歩道と車道の間を勢いよく自転車で走ってくる、うちの生徒の姿が見えた。
「舞、危ないぞ」
俺は舞の身の危険を咄嗟に感じ、舞の腕をつかんで歩道に引き寄せた。同時に俺は車道側に移動する。案の定、自転車は俺たちの横スレスレを全速力で通り過ぎていった。
「あっぶねぇな」
俺がキレ気味に自転車を睨みつけていると、
「陵、ありがと」
舞が俺の目をじっと見つめ、にっこり微笑んだ。
そんな何でもない舞の仕草にどきっとしてしまう。
「陵、何ニヤニヤしてんの?」
「え、え?」
俺は恥ずかしさのあまり、舞を置いてきぼりにするように歩みを早めた。
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