Go Onstage!

第32話

 二日後の月曜日の放課後。俺は日直の仕事で学級日誌を職員室に提出し終わると、アニメ研究部の部室に足を運んだ。


 土曜のメイドカフェからの帰り、俺は愛莉とある約束をした。愛莉に、アニメ研究部内で俺がプロデュースするアイドルグループに加入してもらい、その活動を通じて俺が愛莉の芸能活動を応援するというもの。

 約束したはいいものの、愛莉が本当に乗り気になってくれたのかは、今日の部室に愛莉が来てくれているかで判断できるはずだ。


 部室の扉をノックをし、舞が「はぁい」と返事をしたことを確認すると、俺は扉を開いた。

 目の前に広がった光景に、またしても俺は度肝を抜かれた。

「お前たち、今度は一体何してんだ?」

「何って見たらわかるでしょ?」

舞が床に手を着くブリッジの姿勢のまま、苦しそうな声で答えた。

 レジャーシートほどの大きさのマットに、4色の円が6つずつ書かれている。

 ツイスターゲーム。

 審判がスピナーと呼ばれるルーレットを回し、プレイヤーは表示された体の部位と色の指示に従い、手足以外の体が床につかないよう体を動かす、単純だが結構盛り上がるゲーム。

 シートの上で複雑に絡み合い、地味にキツそうな舞と愛莉に対し、審判のあおいは涼しい顔で指示を出していた。三人とも体操服姿で、ちょっとやってみようという軽いノリではなく、ガッツリとゲームを楽しんでいたという感じ。

 程なくしてブリッジの体勢に耐えきれなかった舞が尻餅をつき、愛莉の勝利が決まった。

「やった、あたしの二連勝ね!」

「愛莉はほんと体力あるな〜」

 負けた舞が悔しそうに、愛莉の背中をビシビシと叩いた。

「宮前くんも一戦いかがですか?」

と、あおいが純粋な瞳で俺に提案するが、

「いや、俺は遠慮しておく。男女でツイスターはいろいろと問題がある。それより誰だ、こんなもの部室に持ち込んだのは?」

「わたしでーす」

舞が小学生のように元気に手を挙げて答えた。

「この前、室井さんが陵に言ってたじゃん。もっと私たち遊んだほうがいいって。だから美咲さんからもらってきたの」

「また美咲さんか、こたつに、テレビに、今度はツイスターか。何でも提供してくれるな。それはそうと、室井さんは曲にもっとオリジナリティを出した方がいいと言っただけで、単純に部活しないで遊べと言ったわけじゃないぞ。確かに、交流の一環としてなら許容できるが」

「だって、舞。頭の硬いやつがいると、折角私たちで和ませておいた空気が台無しね。今度、舞の家でお泊まり会するときにやるとして、さっさと片付けましょ」

と、愛莉がマットをくるくると丸めて片付けていく。

「今、舞の家でお泊まり会って言ったか?」

「言ったけど、何か問題?」

「いやぁ・・・別に問題じゃないけど、お前らいつの間にか仲良くなったんだなと思って」

「なになに? もしかして、陵、私たちが陵の知らないところで仲良くなってるのが羨ましくなっちゃった?」

舞は俺のそばに来ると、下からじっと揶揄うような視線を送ってくる。

相変わらず俺はこの部活で冷遇されている。どこで道を間違えただろうか。

鬱陶しい舞の視線を掻い潜り、そんなことを考えていると、

「陵さんにビッグニュースがあります」

と、あおいが一枚のチラシを見せながら近づいてきた。

「『宮本町交流会』? これがどうした?」

「今日の昼休みに、私、生徒会室に呼ばれたんです。この前部長会議参加し忘れたの怒られるかと思ってビクビクしてましたが、そういう話ではありませんでした。毎年五月中旬、私たちの学校がある宮本町では、地域の活性化のために商店街主催の交流会が開かれているそうなんです。その中で、三味線や演歌を地域の方々が披露するステージがあって、今回私たちに出演依頼が来たんです!」

「ちょっと、待て。なんで商店街の人たちが俺たちの部活の存在を知ってるんだ? まだ動画の投稿もしてないだろ?」

「どうやら浅川くんが生徒会にいる友達に私たちの活動のことを話したらしいの。生徒会には元々この依頼が来ていて、出演できる部活を探していたと。それで丁度いいからって、うちに話が回って来たみたい」

と、舞が補足してくれた。

「丁度いいからって。まさか、あおい、それ二つ返事でオッケーしちゃったんじゃないよな?」

「しちゃいました・・・」

あおいは俺に詰問され、申し訳なさそうにもじもじと答えた。

「取り消しはできないのか?」

「もう生徒会から商店街に私たちが参加すること連絡しちゃったみたいなんです・・・」

俺はあおいからチラシを奪い取り、交流会の概要を確認する。

「5月22日って、あと一ヶ月しかないじゃないか? まだ曲だって完成してないし、振り付けも考えてないのに」

俺は準備期間の短さに頭を抱えた。

「男のくせにぐちぐちうるさいわね。一ヶ月もあるならどうにかなるっしょ。てかゴールデンウィークもあるなら余裕じゃない?」

「どこから来るんだ、お前のその自信は?

もー、連休は趣味に没頭できると思ってたのに」

 

 交流会まであとちょうど一ヶ月。間に中間試験があることを踏まえると、練習に避ける時間は三週間といったところか。愛莉がバイトで来れない日も考えると、残された時間はもっと少ない。

 急な依頼に俺は正直参ってはいた。だが、無事に愛莉も活動に加わって軌道に乗り出したところ。このいい流れを止めたくはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る