第31話
「なかなかいい曲と歌詞じゃないか。高校生が作ったにしては上出来だよ」
「ありがとうございます」
「だけど、ありきたりだ」
俺自身自覚はあったものの、他人からずばり指摘されると若干傷つく。
「俺たちらしさが足りないということですか?」
「まあ簡単に言うと、そう言うことだ。陵くん、きみはこの曲を作っている時にどんなことをイメージした?」
「ポップでキュートなイメージ」
「うん、そうだね。だがこれはきみたちの表題曲になるものだ。もっと遊んでもいいんじゃないか?」
「遊ぶって具体的にはどう言うことですか?」
「互いを知り合う必要がある」
「どうやって?」
「それくらいは自分で考えてくれ」
「は、はぁ... ところで、この店のステージで使われていた楽曲は全てオリジナルですか?」
「そうだよ。全部僕が作ったんだ。なかなかいいだろ?」
「はい。店の雰囲気に合っていて、メイドさんたちもいきいきして見えました」
「聞いたかい、カノン。俺がブラブラ外に出歩いてるのは新曲のインスピレーションを得るためなんだよ」
「それはわかりますけど、店長なんだからもうちょっと店にいてくれないと。困ったときすぐ相談できないじゃないですか」
「それは悪かった。今後は気をつけるとするよ。春だから出歩きたくもなるんだ。虫や犬猫と同じだ」
「変質者も春が一番多いと聞きますしね」
「あおいちゃん、鋭いツッコミだね。おじさん、そういうの好物」
あおいは気持ち悪いものを見るように室井を睨んだ。俺は『変質者』と聞いて、露出度の高い服装でやってきた舞を見るが、舞は何のことだかわからないといった表情でそっぽを向いた。
室井、室井... 俺は渡された名刺を見て、その名前にどこか見覚えがある気がした。だが、思い出せない。
「部員はこれだけかい? 舞ちゃんに、あおいちゃんに、愛莉。そこのいかにも運動部の男の子は?」
「俺はサッカー部で、こいつらのクラスメイトです」
「今のところは部員は私たちだけです。今後の活動を通して、部員集めもしていくつもりです」
舞が答える。
「メンバーは多い方がグループとしての魅力は高まるからね。がんばってくれよ」
「また曲のこととか相談しにきてもいいですか?」
「もちろんさ。いつでもいいよ。いるときはいる、いないときはいないけどね」
アイドルグループをプロデュースするなんて初めてだった俺は、相談できるプロを見つけられて嬉しかった。室井が言うように、俺たちの部活はまだ始まったばかりで、互いのことを深く知り合えていない。いきなり楽曲作りから始めてしまったが、アイスブレイクに時間を割くべきだった。何かを始めるときに、形から入ろうとしてしまう俺の悪い癖だ。
◯◯◯
帰ろうと店を出るともう夕方で、愛莉とあおいを含め俺たちは、西東京方面の電車に乗った。車中ではメイドカフェでの出来事、学校の話、たわいもない話で盛り上がった。
途中の駅で舞、あおい、浅川は降り、電車に残ったのは俺と愛莉だけになった。
喧嘩してから二人きりで話すタイミングがなかったため、無言のまま何となく気まずい空気が流れる。
「「あのさ」」
二人同時に話し始める。
「どうぞ」
俺は愛莉に話を譲る。
「この前はごめん。部室でスマホばっか見て、部活に協力的じゃなくて」
「いや、俺こそ、言い過ぎたなって反省してたんだ。謝ろうと何回かお前のクラスに行ったけど、会えなくて。遅くなっちまったけど、こっちこそごめんな」
「私もアニメは好きなんだよ。だからこの部活に入ったの。みんなには言ってないけど、わたし声優目指しててさ。活動のためにお金が必要であのカフェでバイトしてんの」
「ああ、そうなんだろうとは思った。実は舞にお前の中学の時の写真見せてもらったんだ」
「そっか、見たんだ。中学の私、めっちゃダサいでしょ?」
「いや、あれはあれでいいと思うぞ。今のギャルみたいなお前も悪くないけど」
愛莉は俺にそう言われて恥ずかしかったのか、頬をほんのり赤く染めた。それを
「勘違いしないでほしいけど、あんたが初日に私の着替え見たこと、まだ許した訳じゃないから」
いつもの強気な口調に戻って俺を責める。
「はあ? それは許してくれたはずじゃなかったか。まあいい。毎日部活に来いとは言わん。だが、今日のお前のステージを見て思ったんだ。俺たちの活動にはお前が必要だってな。特にお前の表現力は他の誰より高かった」
「オーディションは落ちてばっかだけど...」
「諦めんなよ。一つ思いついたことがあるんだ」
「何よ?」
「お前たちの動画をネットにアップする計画だって言ったよな。それをお前の宣伝にも活用できないかな?」
「なるほどね。あんたが私をプロデュースしてくれるってわけね。悪くない話ね... 誰かに見られてるって意識するだけで、いい刺激になるし」
愛莉はそういうと、何か考えるように押し黙ってから
「わかった。その話、乗ってあげる!」
と、やる気に満ちた表情で俺にそう答えた。
その瞳は、夕陽のオレンジ色の光が映り込んで、俺には直視できないほど輝いて見えた。
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