第24話
何度か愛莉のいる1年D組を訪ねたが、タイミングが悪いのか愛莉に会うことはできなかった。放課後はすぐに下校しているとの情報をD組の生徒から浅川経由で教えてもらった。
そうしている間にも俺は作曲した曲の編曲を、舞とあおいには作詞をしてもらい、あっという間に週末が訪れた。
なんだかすっきりしない気持ちを抱えて迎える休みは嫌なものである。こういう時は思い切り日常とかけ離れたことをすることで、案外気が晴れたりする。
昼時の秋葉原。
昨今のアニメブームも影響してか駅の周辺はごった返していた。
あおいも来たがってはいたものの、家族との用事があるとかで来られず、今回は浅川、舞、俺の三人で出かけることになった。
『メイドカフェ・シュガースイートドリーム』
駅から徒歩5分の繁華街。
ホームページのノリそのままに、表の看板にはユニコーンやらアイスやら甘ったるいイラストが描かれ、その横ではメイド服とパジャマを足して2で割ったような制服を着た女の子の店員が笑顔で客引きをしていた。
「どうやらいかがわしいお店ではないようね」
最近はメイドカフェを装った成人男性向けの店が多いと聞く。
この店に来るまでにも何軒かそれらしき看板を目にした。
「それで、舞はどうしてその格好なんだ?」
「何かおかしい?」
怪しい看板以上に怪しい服装のやつが約一名。
舞は丈の長いトレンチコートをきっちり羽織ってはいるものの、首元、袖口、裾からはおよそ服と呼べる生地が見られない。つまりはコート一枚だけで、中に何も着ていないのではと疑ってしまうような見た目。
「明らかに変質者だろ。組んだ腕をどかせない理由があるのか?」
「こんなところでお目にかかれるとは思わなかった。舞ちゃん、一枚写真お願いします!この通りは人があまりいない。今がチャンスだよ。バッと見せてくれたら、パシャっと撮っちゃうから」
浅川は目を輝かせ本気モードだ。警察が通りかかったら、俺たちは補導されるに違いない。
「期待を裏切るようで悪いけど、服はちゃんと着てるから」
舞がコートを一枚脱ごうと、上からボタンを外していく。
「そんなにジロジロ見ないでよ...」
俺と浅川の視線が露骨だったのか、舞は恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「だんだん暑くなってきたからね」
素足に白のショートパンツを履き、ミニ丈のぴっちりした半袖Tシャツ姿。
舞はTシャツの裾を引っ張ってヘソを隠そうとするが、かえって豊満なバストを強調してしまっている。真っ白な太ももをすり合わせるように体をくねらせる。
舞の素晴らしいプロポーションが公道で公開される。
気がつくと、俺たちは道行く人の注目の的になっていた。
浅川は写真を撮る余裕もなく、自ら『ポーーーっ』と蒸気機関車のような声を上げると、鼻血を出して倒れてしまった。
この服を着るのが小学生ならなんらおかしくない。海外ではこんな露出は当たり前。
だがここは日本。
そして俺と浅川はこれでも、いや正真正銘の童貞だ。刺激が強い。
年頃の発達した体でこんなぴっちぴちな服を着ると、存在自体がもはや罪と化してしまうことを一つ学んだ。
「舞、他に服はなかったのか?」
「それがなかったの。春休みに断捨離しすぎて小学生の頃の服しかなかった。(制服とコスプレの衣装しかなくって...)」
「断捨離の対象を間違えてないか。先週浅草行った時着てたのはどうした?」
「昨日着て洗濯中」
「金やるからちょっとは年齢に合った服を着ろ」
「難しいことをおっしゃいますな。陵たちが意識しすぎなんじゃないの?」
「トレンチコートもトレンチコートで怪しいしな、どうにかその服隠さないと」
「トレンチコートならぬハレンチコートね」
「寒いギャグを言うな。寒暖差が激しくて風邪引きそうだ」
俺は着ていたパーカーを脱いで舞に着るよう促した。舞は、あろうことかそのパーカーに鼻を近づけ、匂いを嗅いだ。
「陵の匂いだ〜」
「お願いだから嗅ぐな」
「別に臭くないよ。シャンプー嫌いなうちの犬と同じ匂いだ」
「それは臭いんじゃないか!」
ようやく浅川が意識を取り戻し、起き上がってきた。
「舞ちゃん、びっくりしたよ、まったく。ってなんてダサいパーカー着てるんだ。舞ちゃんのせっかくの美貌が台無しじゃないか」
「ダサくて悪かったな。早く行くぞ」
「え、舞ちゃんの写真は?」
俺は歌詞のセンスもなければ服のセンスもなかったようだ。
これ以上路上で騒いでいると通行人の邪魔になりかねない。大人しく本来の目的であるカフェに入ることにした。
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