第22話

「ポップでかわいいじゃん! 陵の中での私たちのイメージってこんな感じなんだ。なんか意外」

「そう言われると恥ずかしいからやめてくれ」

「あとはどんな歌詞をつけるかですね。折角せっかくの宮前くんの曲を生かすも殺すも作詞、編曲次第な気がします」

「編曲はこれからやるつもりだ。だけど作詞が難しくてな。自分でもいくつか考えてみたんだが、どれもありきたりで没個性なんだ」

「どんなの考えたの?」

「絶対に笑わないって約束してくれるか?」

「「うん!」」


 ポケットから折り畳まれたルーズリーフを取り出し、彼女たちの前に広げる。

「これは...」

ひどいですね。宮前さんが恋愛こじらせてるのが、何となく理解できる気がします」

「そうなのか?!」

「ええ。『どうしてわかってくれないの』『私のことちゃんと見て』とかキモすぎて、引くレベルですね。引くどころか逃げ出したくなります。どこが没個性ですか? 宮前くんの個性出まくりじゃないですか? これじゃあ私たちはとんだメンヘラグループになってしまいます。曲に対して歌詞が重すぎます。違う曲にあてた歌詞ですか、これは」


次から次へと降り注ぐあおいの批判の矢に耐えていると、舞がルーズリーフを俺から奪い一語一語丁寧に音読していく。


「おい、声に出すな。感情を込めて読むな。めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた」

「あおい、作詞は私たちでやってみない?」

「いいですね。私たちで考えれば、少なくとも湿っぽい歌詞にはならないはずです」

「歌うのは私たちなんだから、歌詞に思いがこもってた方が歌いやすいし」

と舞とあおいで話がまとまっていく。


「じゃあ歌詞は任せたぞ。俺は編曲に集中する」


俺は舞からルーズリーフを奪い返すと、ポケットに雑にしまい込んだ。

結構真面目に考えた歌詞だけに酷評されたのは悔しかったが、舞たちがそういうのなら仕方ない。

某アイドルグループの作詞を手掛けるおじさんプロデューサーがどうしてあそこまで女子の心情を理解した歌詞を量産できるのか疑問でならない。

まあ、曲は褒められたのだから良しとするか。


 そんなときドアが開き、愛莉がスマホの画面を見ながら部屋に入ってきた。


「おい、何か言って入ってこいよ。俺にはノックしてから入れって言った癖に」

「え、なんか言った? 聞こえなかった。そういえば、来る途中に生徒会の人があおいのこと探してたわよ」

愛莉はワイヤレスイヤホンを外しながら、あおいにそう伝える。

「...... そ、そうでした!今日、部長会議なのすっかり忘れてました」

あおいは慌てふためいて部室を出て行く。


「今、陵が私たちのために作ってくれた曲を聞かせてもらってたところなの」

「へぇーあんたピアノできんだ?」

席に座ってもなおスマホにかじりついたまま適当に話を聞く愛莉に、俺はだんだん腹が立ってきた。

「舞とあおいが作詞することになったんだ。お前も一緒に考えてくれるか?」

「嫌よ。何で私がそんなことしないといけないわけ? ここはアニメ研究部であって、地下アイドルの巣窟そうくつじゃないでしょ?」


舞は愛莉にそう言われてショックだったのか、浮かない表情になる。


「お前はそうやってスマホ見てるけど、何見てんだ? アニメとか漫画のこととか少しは考えてんのか?」

「は? 違いますけど」


怒った俺が愛莉の画面を覗こうとすると

「やめてよ。人のスマホ覗き込むとかマジ最低なんだけど。もういい。折角部室に顔出してあげたのに、気分悪い。わたし、帰る」

愛莉は鞄を抱え帰ろうとする。


俺は愛莉を引きとどめようと言葉を探した。


「待てよ。じゃあ何でこの部活に入ったんだよ?」

「何でって... 私が入って悪かったわね。もう来ないから、安心して」

愛莉は俺からの質問を否定的に捉えてしまったようだ。背中越しにそう呟くと、さっさと部屋を後にした。


舞と二人残された部室は、とても広く静かに感じた。


「陵、今のはいくら何でも言い過ぎだよ」

「ああ、言い過ぎた。単純に、何で愛莉がこの部にいるか聞いてみたかったんだが、聞くタイミングが悪かったな」


どうしたら愛莉と普通に話せるようになるんだ。スタートラインにも立たせてもらえないなんて辛すぎる。


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