ミラクルな夢

第18話

 週明け月曜の放課後。今日から一年生の部活が正式にスタートだ。

 部活が盛んな学校とだけあって、クラスの9割が部活に入った。

『やっと今日から部活ができる!』

そんなそわそわした気持ちが教室全体から伝わってきた。


 俺は早速部室に行ってみることにした。舞とあおいは日直の当番のため、少し遅れてくる。

 あおいは一昨日おととい浅草で足を怪我してしまったが、今日見たら普通に歩けていて、本人も回復したと言っていた。

 職員室に鍵をもらいに行くと、俺たちの顧問・松村のもとには、下心したごころの透けて見える男子の先輩数人が集まり、授業の質問という名目で松村とおしゃべりしていた。

 俺が入り口付近で入室するのを躊躇ためらっていると、俺の存在に気づいた松村が会話を中断する。すると、先輩たちは俺に『邪魔者じゃまものめ』と言わんばかりの冷たい視線を送ってきた。


「陵くん、せっかく来てくれたところ悪いんだけど、鍵ならもう持って行かれちゃった。もう一人、入部した子がいて。あと30分くらいしたら、先生も顔出すね。」


松村は前髪をかきあげ、大声でそんなことを言う。

ちなみに、陵くんなんて言われたのは、これが初めてだ。


目の前の男の前で、他の男と親しいのをさりげなくほのめかすことで、目の前の男にジェラシーを抱かせる。そんなテクをウブな男子高校生に試して遊んでいるとしたら、なんて悪い女だ。


特にそんな意図はないと信じたい。部活の生徒だけ名前呼びしてくる教師はたまにいる。俺が恋愛作品の読みすぎで深読みしすぎだと信じたい。


「ももちゃん、なんであいつのこと、下の名前で呼んでんすか? 俺たちもそうしてくださいよ」

「こらこら、ももちゃんなんて読んじゃダメ!部活の生徒だから、ついよつい。」


松村と俺が、部活の顧問と唯一の男子部員である限り、俺は松村目当ての男子どもにのレッテルを貼られ続けるのだろう。


先輩たちに顔を覚えられないよう、足早あしばやに職員室から退散する。



◯◯◯



もう一人入部したというが、一体どんな子だろう?


部室へと続く三階の廊下をひとり歩く。

放課後特有のひんやりと心地良い空気が俺の心を浄化してくれる。

遠くから運動部の掛け声がこだましてくる。

この雰囲気は嫌いじゃない。


部室に到着。

普段授業の行われている教室とは違い、中が見えない造りになっていた。

今日からここが俺の城か。清々しい気持ちで扉を開き、中に足を踏み入れた。


するとそこには、予想外の光景が......


肩にかからない程度に切り揃えられた茶髪の女の子。

俺に背を向ける形で、部屋の中央で制服のスカートを脱ぎ始めていた。

しかも上半身は水色のブラしか着けていない。

ウエストは綺麗にくびれているものの、スカートとソックスの間の絶対領域は適度にむっちりしている。もう少しでお尻とご対面してしまいそうなところだった。


女の子は着替えに気を取られ、俺の存在に気づくのに数秒かかった。

俺は俺で動揺しまくりで何もできず、無言で彼女を見てしまっていた。


くりくりっとした目の女の子が振り向き、俺と視線がばっちり重なる。


「きゃあぁぁっっっっっっ!!!!!」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

女の子と俺は同時に叫ぶ。


「ちょっと、いきなり何なの??? あんた誰?」

女の子は机の上に置かれた脱いだ制服を急いで回収し胸元を隠すと、その場にしゃがみ込んだ。


「いや、胸は見てないぞ、胸は!」

俺は動揺のあまりおかしな言い訳をしてしまう。


「は? 『胸は』って何よ。他は見たんでしょ? マジ最悪なんだけど。この変態! 早く出て行きなさいよ!」

女の子はそうまくし立てて俺を睨みつける。


「いや、俺は、そのお、ただあれだ、あれ、部活に来ただけで。のぞきとかそんなんじゃないから。悪かった。許してくれ。見なかったことにするから。」


俺は必死に無罪を主張するが、わかってもらえそうにない。

しかもそこにタイミング悪く、舞とあおいが合流した。


状況から見て、俺が女子に乱暴したとでも思ったのか。舞はあきれ顔で俺に向かって言った。

「とうとう陵は二次元に飽き足らず、現実の女の子にまで手を出すようになってしまったか......」


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