第17話
「やだ、あおいちゃん、どうしちゃったの?」
「さっきの階段で足
あおいをおんぶした俺は、人形焼の店先にいた舞と浅川に合流し、事情を説明する。
「ごめんなさい、みなさんにご迷惑おかけして」
「迷惑だなんて思わないよ。早く手当しないとだね」
浅川は近くに病院がないかスマホで検索し始めた。
「それなら美咲さんのお店に戻りましょう。あの人、昔、看護師だったのよ。」
「それはちょうどいい、行こう」
俺たちは急いで店に戻り、美咲さんにあおいの手当てをしてもらった。
美咲さんによると、あおいの怪我は幸い大したことはなく、2、3日安静にすれば元通りとのことだった。
とはいえ今日はこれで切り上げて、早く休ませてあげた方がいい。舞とあおいが着替えを済ませ戻ってきた。
「全く、今度から痛いならもっと早く言えよな。」
「ごめんなさい...」
椅子に座ったあおいは申し訳なさそうに呟く。
「まあまあ、そんなに強く言わないで、陵。あおいちゃんは、私たちのこと思って我慢してくれてたんだね。ありがとう。」
「あおいはもっと素直になっていいんだぞ。俺たちに気遣いは必要ないから。」
驚いたように顔を合わす俺以外の三人。
「俺、なんか変なこと言ったか?」
「いえ。私のことあおいって呼んだの、初めてだなと思って」
「そういえば、そうかも。嫌だったか?」
「いえ、そのほうが嬉しいです。」
「何だ、何だ、宮前。俺が見てないうちにあおいちゃんと仲良くなっちゃって。」
浅川が茶化してくる。
無意識にあおいを呼び捨てにしていたが、こうすることでよりあおいと距離が縮まる気がする。呼び方ひとつでこんなに印象が変わるものとは思わなかった。あおいに気を遣わせてしまっていた原因は俺にもあったかもしれない、と反省した。
「じゃあ、そろそろ帰りますか?!」
レンタル着物はおろか手当までしてもらった美咲さんに舞が礼を言い、俺と浅川も続こうとしたところだ。
「少しわがまま言ってもいいですか?」
あおいが席に座ったまま、上目遣いで訴えてきた。
「何、何? なんか食べたいのか?」
「さっきお腹いっぱいって言ってただろ。どうしたんだ、あおい?」
相変わらず文脈の読めない浅川はさておき、俺はあおいの要求を聞くことにした。
◯◯◯
「ここです。」
俺におぶわれたあおいに指示されるままたどり着いた先は、浅草寺からほど近い隅田川の河川敷だった。
「これって...」
俺は目の前の光景に圧倒された。
「すごい、桜並木だ!」
飛び跳ねてはしゃぐ舞。
浅川は感激した様子でカメラを構える。
あおいが案内してくれたのは、桜の名所として知られる場所だった。ちょうど今が満開の時期らしく、視界は一面桜色で満たされた。
俺たちはしばらくその満開の桜の下を並んで歩いた。時間はもう夕方近くで、遠くの空はオレンジ色に染まり始めていた。
「足は痛むか?」
背中のあおいが静かだったので、心配して聞いた。
「おかげさまで本当に大丈夫です。宮前くんこそ重たいのに大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だ。お前予想以上の軽さだ。 それより、よくこんな場所知ってたな」
「はい、一度家族と来たことがあるんです。舞さんに浅草に誘っていただいた時から、みなさんにもこの桜を見せたいと思っていました。」
「こんなところがあるなんて、わたし知らなかったよ。連れて来てくれてありがとう、あおい!」
舞は落ちてくる桜の花びらを手のひらでキャッチし、『見て見て』と俺とあおいに微笑みかける。
「俺もあおいって呼んでもいいか?」
「もちろんです。」
呼び捨て許可をもらった浅川がカメラを構えると、あおいはカメラに向かって笑顔でピースしてみせた。
あおいの声にすっかり覇気が戻り、俺は安心した。
「ラーラー♪」
突然、俺の耳元であおいが歌い出した。
あおいの透き通った伸びのある声が、春風のように優しく俺たちを包み込む。
それに釣られ、舞も同じ曲を口ずさむ。美しい二人のハーモニーが心地よく俺の体に染み入る。
◯◯◯
浅草を出て帰り道。俺以外の三人は、電車の座席で気持ちよさそうに肩寄せ合って眠っていた。
『俺のこれからの学生生活、楽しくなるかもしれない。』
彼女たちの歌は、俺を前向きな気持ちにさせる不思議な魅力を持っていた。
二人にこれからどんな歌を歌ってもらおうか。
俺はあおいたちが歌っていた歌を脳内再生し、頭の中の譜面にメロディーを書き起こしていた。
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