第16話
四人で
「よくそんなに幾つも食べられるな。さっき芋
俺とあおいは1軒目で腹がいっぱいだったが、舞と浅川はこれでもう4軒目だ。
「だっておいひいんはもん。」
「うわっ、あっつ!」
舞は揚げたて熱々の揚げまんじゅうを、どういうわけか涼しい顔をして食べている。それを見て浅川は油断したのだろう。丸一個を
「舞ちゃん、何で?熱くないの?」
「大げさだな、浅川くんったら。ちょっとあったかいくらいじゃん。」
店先で四人で話していると、外国人観光客と思しき老夫婦が俺たちに話しかけてきた。何か探しているのか、ジェスチャーを交え英語で質問されるが、しゃべるのが早くて聞き取れない。
「舞、何て言ってんだよ?」
「わかんないよ〜。AGEMANJU IS GOOD!」
「そんな情報求められてねぇよ。あおいちゃんはどうだ?」
「えっと、トレインと言ってるので駅を探しているんでしょうか。ところどころ単語は聞き取れるんですが...」
と、そんなときだ。
揚げまんじゅう地獄からようやく解放された浅川が、前に出てきて
俺、舞、あおいは、予想外の展開に口をあんぐり開け、その光景を眺める。
夫婦は浅川から聞きたかったことが聞き出せたのか、サンキューとかなんとか言って浅川と握手している。そして、彼らは着物に興味があったのか、舞とあおいと楽しそうに記念撮影すると、どこかへ消えていった。
「ここからスカイツリーに行くにはどうしたらいいか聞きたかったみたいだ。」
「お前、何でそんな英語話せんの?」
「言ってなかったっけ? 俺、中学までアメリカにいたんだよ。」
「アメリカ? だからあんなにすらすら話せたのね」
「いわゆる帰国子女ですか。浅川くんにそんな隠れ属性があったとは、いやはや驚きです。」
煙をシューズ袋に入れて持ち帰ろうとしたり、ときどきおかしなテンションだったりする理由がわかった気がした。
「今度から英語で困ったら教えてくれる? 陵なんかよりずっと頼りになるわ。これだから日本の英語教育は使い物にならないわね、全く!」
舞は眉間に皺を寄せ、腕を組み、偉そうにそんなことを言う。
「お前も俺と同じだろ。何がAGEMANJU IS GOODだ。世界に恥をさらすな。」
「でも国語はダメダメなんだ。舞ちゃんがピチピチシャツにミニスカで家庭教師してくれたら、できるようになるかも。」
「それは遠慮しておくけど、またみんなで陵の家に集まって勉強会したら楽しそうかも。今度はあおいちゃんも一緒にってことで。」
「お願いします。宮前くんの趣味の悪い部屋、是非拝見したいです。」
「趣味の悪いって、グサッとくるな。あおいちゃんに言われると余計に。」
それから適当に気になる店を見て回った。舞と浅川は、まだ懲りずに食べ歩きを続けたいと言う。
外国人夫婦と別れて間もなくしてだろうか。
俺だけかもしれないが、あおいの様子がどこかおかしい気がした。口数が減り、元気がなさそうなのだ。元気いっぱいな舞と浅川に『俺とあおいは少し休憩してから合流するから、二人で食べてきてくれ』と伝え、俺はあおいと一緒に近くにあった日陰のベンチに腰を下ろした。
「もしかして、さっきの階段で足
「えっ、あっ、その... 少しだけ。」
右のくるぶしを気にする様子のあおい。
「ちょっと、見せてくれるか?」
「そ、そんな。大丈夫ですから。」
あおいは見られまいと抵抗するが、俺は心配になってあおいの右足の足袋を少しめくる。すると左くるぶしに比べて、右くるぶしがやや赤く
「どうして痛いって言わないんだ?」
「だって、みなさん楽しそうなのに水を差すのが悪いし。これくらい問題ないです。」
と、強がったことを言う。
俺はベンチに座るあおいの前に背中を向けてしゃがみ込み、背中に乗るよう両手を伸ばす。
「何の真似ですか?」
驚いた様子のあおい。
「乗れ」
「え? そんな申し訳ないです。」
「申し訳なくなんかないから、乗れ」
あおいは戸惑いながらもベンチから立ち上がると、さっきより痛そうに足をひきづり、俺の背に遠慮がちに身を預けた。
『これだから放っておけないんだ』
俺は心の中でそう呟いた。
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