第15話

「どう?!似合う?!」

「舞さんはいいですけど、私はやっぱり似合ってないかもです...」


 二人ともえりや帯にレースをあしらった白い着物を着ている。おそろいかと思ったが、若干デザインや色味が違うようだ。舞は髪をきれいにお団子にまとめ、パールの髪飾りを付けている。あおいはいつもより手の込んだ三つ編みにし、そこに小さな黄色い花のモチーフをいくつも散りばめている。


 笑顔で様々なポーズを決める舞、そして恥ずかしそうに舞の隣でもじもじするあおい。


「二人ともすごいかわいいよ!」


 浅川は着飾った二人を見て興奮した表情だ。対して俺はというと、あまりのきれいさにすぐには言葉が出てこなかった。美咲さんのスタイリングはセンスがピカイチで、舞とあおいはプロのモデルに見えたくらいだ。純白じゅんぱくの着物は神々こうごうしく、彼女たちの美しさを余すことなく引き出している。


「・・・」

「陵もボケーっとしてないで、かわいいくらい言ってよね」


舞の一声で催眠術から解かれたように、俺は正気に戻る。

「すごく、いいよ。」


きっと素晴らしい絵画や将来自分の花嫁を前にしたときは、こんな感覚なんだろうと思った。時間が止まり、目の前のものしか見えなくなるみたいに。


 それから俺たち四人、前後左右の仲見世を通り抜け、浅草寺に向かった。本堂の前の人だかりに加わると、「じょうこう」から目がくらむほどの煙が湧き出ていた。

 煙を体の悪い部位にかけると良くなるとの言い伝えがある。

多くの参拝客がするように、俺は自分の頭に煙をかける。

気になって他の三人を見てみると、舞は二の腕、あおいは喉、浅川はなぜかシューズ袋に煙を入れようとしている。あおいは歌うために喉なのはわかるが、舞はなぜ二の腕なのか。浅川に至っては想像がつかない。


「お前ら、何でそこなんだ?」


「二の腕をもっと細くしたいのよ。」

「舞さん、充分細いじゃないですか」

「ありがとう、あおいちゃん。よくできた子ね、ほんと」

舞があおいの頭をなでなですると、あおいはにんまりと目を細める。


「俺はこれを持ち帰って学校のグラウンドにくんだ」

「それは、甲子園の砂じゃないのか」

「・・・ あぁ、知ってたよ。試してみただけさ。お前が正しく突っ込めるようにな! スポーツに全く興味がない宮前の教養を確認したんだ」

明らかに誤解していたのに平気でうそぶく浅川のおもしろ発言に、舞とあおいは片寄せ合ってくすくす笑っている。


 みんなで本堂でお参りを済ませ、おみくじを引いて誰が強運かと競い合い、浅川が晴れ着をまとった二人をカメラで撮る。

 舞は裏で美人コスプレイヤーやってるだけあって、どうしたら自分を魅力的に見せられるかをよくわかっている。笑顔、誘うような表情、うつろげな表情、いろんな表情を自在に操る。被写体が優秀なだけあって、浅川は自分のカメラマンとしての腕を過信してしまっていることだろう。面白くもないギャグを連発して、プロのカメラマン気取りだ。


 そんな舞の隣であおいは、最初のうちこそ恥ずかしがって硬い表情だったものの、写真撮影が始まって一時間もしないうちに自然な笑顔を作れるようになった。


『この子、こんな弾けるような笑顔も見せるんだ』


 あおいがいつも自信なさげなのは癖であって、嘘でもいいから堂々と振る舞おうとしていれば、いつか本当に堂々とできるようになるかもしれない。そんなことを思った。


 撮影会はそこそこに、仲見世を巡って小腹を満たそうと石造りの階段を下る。


「ひゃーっ!!」


大したことない段差程度の階段だったが、普段着慣れない着物と下駄でバランスを崩してしまったのだろう。あおいが一段踏み外し、転びそうになった。下を行く俺は、悲鳴に気づいて咄嗟とっさにあおいを抱き止めた。


「大丈夫か?」

「.... すみません。」


俺の顔を見上げたあおいは、自分の置かれた状況に気づき、顔を真っ赤にさせた。すぐさま俺から距離を取る。


「大丈夫ですので、行きましょう」

至近距離でよほど恥ずかしかったのか、俺たちの前をすたすたと歩き出した。

強がる背中は小さく、どこか放って置けないかわいさがある。


あおいのドジっ子っぷりは健在のようだ。

一見マイナスと思えるドジも、場合によっては一種のチャームポイントなのかもしれない。





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