第13話
アニメ研究部という部活が高校にあること自体、珍しい。
入部届を提出する際、顧問を務める国語の教師・松村が教えてくれたことには、今年新入部員が入らなければ廃部になっていたらしい。
主たる活動としては、部員たちのおすすめアニメの紹介誌の作成、文化祭でのポスター展示。文芸部っぽい活動だ。
ちなみに松村は去年教師になったばかり。
女子大生感の抜けきらない、教師というより民放のアナウンサーといった華やかさだった。
「入部してくれて本当にありがとう。誰も入部しなかったら廃部になって、別の部活の顧問やらなきゃいけないところだった。まあ危険なことだけはしないで、自由にやっちゃってちょうだい。」
松村は俺の手を取り、耳打ちしてきた。
近づいたときに若干胸元が見え、ふわっとフローラルな香りが俺の
◯◯◯
教室に戻ると、俺の穴を埋めるように浅川が加わり、舞、あおい、浅川の三人で話をしていた。
「舞の膝の上に乗っかってるそのちっこいの何?」
浅川には、舞の膝で
「私の新しいペットよ。」
舞は、高い犬種の犬を撫でるどこぞの裕福なおば様のように、堂々と振る舞う。
「なるほど。俺も加えてくれ。」
浅川は、あおい(高級ペット)をどかそうとするも、あおいに『シャーっ』と威嚇され
「第一ペットの座は譲りませんが、ちょうど友達も欲しかったところです。浅川くんがどうしてもとおっしゃるなら、仲間に入れてあげてもいいですよ。」
浅川は、あおいの言葉に元気を取り戻し、犬のように腰を振って喜んでいる。
「お前たちは何をやってるんだ。俺がいないと、ツッコミが不足してひたすらカオスになっちまってるじゃねぇか。」
「あら陵、お帰りなさい。遅かったじゃない。」
舞は引き続きキャラを崩そうとしない。
「入部届、出してきてやったぞ。」
「ありがとうございます。」
あおいは膝から降りると、元の礼儀正しさを取り戻した。舞のせいであおいがおかしな性格にならなければ良いが...
基本的な人格形成は、良くも悪くもほぼ学生時代で決まってしまうと聞いたことがある。それが正しいなら、今後の人生を充実したものにするためにも、高校三年間を充実したものにさせたい。学業、スポーツ、生徒会、バイトに恋愛。テーマは何でも良いけれど、中学で帰宅部だった俺は、学生らしいことをしてみたかった。
「そんなことより、今度の週末にみんなでどこかに出かけないかってあおいちゃんと話してたの。部活が始まる前に、親睦を兼ねてね。どうせ陵は暇でしょ?」
「そんなことよりじゃねぇ。お前たちの分まで入部届を出してきてやった礼を先ず言えよな。俺にだって用事の一つや二つ... たまたま今週末は空いてるぞ。」
ラノベを買いに行くか、アニメのグッズを見に行くくらいしか用事が思いつかなかった。今週末じゃなくてもできることだった。
「俺、今週の土曜はサッカーの練習ねぇよ。」
「じゃあ浅川くんも良ければ!」
「行く行く!」
「わたしやってみたいことがあるんだよね。
舞はみんなに見えるよう机の上にスマホを置き、『#浅草』で出てきた検索画像を見せる。
色とりどりの着物を来た女の子たちが、雷門や
「あおいちゃん、一緒にやってみない?」
舞は目を
コスプレ好きの舞が思いつきそうな話だ。
「かわいいです!だけど、私なんかが着ても似合うでしょうか?」
どこか自信なさげなあおい。
「何言ってるの? かわいくないわけがないわ。」
「二人とも絶対似合うよ!カメラマンは俺に任せておいて」
「撮った写真、浅川の変なコレクションに入れんなよ。」
「何のことだか、さっぱりわかりませんね。」
舞とあおいは、これがいいあれがいいとスマホを指差し、自分たちが着る着物のイメージを膨らませている。
ふたりとも数日前に出会ったとは思えないくらい打ち解け合っている。
舞とあおいが初めて話した日、あおいはあんなに遠慮がちだったのに。
浅川がノリノリなのは多少心配ではあるが、仲良くなった男女で外に遊びに行く機会がなかった俺は、単純に楽しそうだと興味が湧いていた。
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