第11話

「リュック間違えて持ってっちゃってごめんね。」

と、気まずそうに謝る舞。

さすがに反省している様子だ。


 俺たちは道端で話すのも何だからと、商店街を少し抜けた先にある駅前のファミレスに来ていた。夕方ともあり店内は俺たち同様高校生の客たちで賑わっていた。


「いえ、気にしないでください。すぐに声をかけなかった私も悪いんです。こそこそと後をつけるような真似してすみません。」

少女は俯きがちに小声で返答した。


「いや、悪いのは完全に舞だから。気にしないで。」

俺はドリンクバーでもらってきたジュースを銀髪少女の前に差し出す。

少女は『ありがとうございます』とそれを受け取ると、手持ち無沙汰にグラスに口を付けた。

それにしても何と礼儀正しい少女だろうか。幼げな見た目とのギャップがすごい。

これで舞とタメだなんてと、舞と少女を見比べていると、舞に『何よ?』とジト目で睨みつけられる。


「確か、蓮沼あおいさんだったよね。自己紹介で、中学では合唱部だったけれど、高校でも続けるか迷ってるって言ってた。」

自信なさげに小声で話す割に合唱部というのが、俺としては意外だった。

日頃から発声を大事にしている演劇部や合唱部は、普段から声が通る勝手なイメージを持っていた。


「そうです。下の名前までよく覚えてますね?!」

あおいは、純粋に自分のことを覚えてくれていたことが嬉しかったのだろう。

顔の緊張がほぐれ、驚いた様子で目を大きく見開いた。


「陵は女の子の話には興味津々なのよ。小学生のとき、クラスの女子全員の誕生日を覚えてたの。それである日、それほど親しくもない子に誕生日おめでとうって言って気持ち悪がられてたことあったっけ...」

「今は俺の昔の話なんてどうだって良いだろ。」

「あおいちゃんに良い顔したいだけでしょ?」

「は?全く小賢しい女だ。」

「何を!!!」


俺は横に座る舞と片肘で突き合うしょうもないバトルを繰り広げる。

それを正面から女神のように優しい眼差しで見ていたあおいが...


「二人は、本当に仲が良いんですね。うらやましいです。」


「「うらやましい??」」

ハモる俺と舞。


あおいは口元に手を添え、さらにフフっと笑った。

「私もそんなふうに話をできる友達がいたらと思います。」


あおいが使う敬語も表面的な付き合いの名残ということなのか。


「俺だって舞だからこんなふうに喋ってるけど、中学の時は友達と呼べる友達いなくていつもぼっちだったぞ。」

と俺なりに気を遣ってフォローするが...

「さすがに私は宮前くんと違ってぼっちではありませんでした。」

と訂正を入れられる。

...こういう真面目な子からの言葉の刃はエグい。


舞は、俺とあおいの横で静かに話を聞いていたと思ったら

「じゃあさ、私たちと一緒にアニメ研究部に入るってのはどう?」


「「???」」


舞の突飛押しもない提案に俺はもちろんのこと、あおいも驚き目をしばたたかせる。


「おいおい、それはいくら何でも話が強引じゃないか? 第一、あおいちゃんはアニメに興味がないんじゃないか?」

俺はあおいを困らせてはいけないと援護する。


「チッ、チッ。あおいちゃんには武器があるじゃない!」



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