第10話

「なあ舞、さっきから誰か後ろからついて来てないか?」

振り返るが、特に誰もいないとわかり、俺は正面を向き直す。


「え、勘違いじゃない?昔から陵はやけに自意識過剰なんだもん。私が毎日陵と遊んで仲良くしてたら、陵ったら勝手に私が陵のこと好きだと思ってたことあったよね。」

「いつの話だよ。小学生のガキだろ。そんなのありがちな話だろ。」

「ふぅ〜ん、そういうもんかな? 普通わからない? 私、他の男の子にも同じように接してたし。」

いたずらっぽい表情で俺を見つめる舞。


「わかんねえよ。第一、お前の周りにはやたら男が集まってくるんだ。それにも関わらず俺と一番長くいるんだから、俺は特別なんだと思ったんだよ。」


今でも舞は男に人気だった。

色白、スタイル抜群、お嬢様っぽい艶やかな黒髪ロング。

美少女アニメになくてはならない存在の具現化だった。


ヲタク全開な自己紹介をしたにも関わらず、

休み時間には舞に声をかけにくる男どもが何人かいた。

アニメを共通項に何とか話を盛り上げ、舞とお近づきになれないかと。


しかし、舞にスポ根やバトル系のアニメの話をしても

舞は笑顔で愛想良く受け答えするものの、楽しそうではなかった。

俺には何となくわかった。


「確かに特別ではあったかな。一番気の合う友達。

だから陵と一緒の学校、一緒のクラスに慣れてサイコーに嬉しい!

受験のときね、実は陵の席のすぐ近くにいたんだよ、私。」

「マジで?全然気づかなかった。それならそうと声かけてくりゃあ、よかったのに。」

「陵、ずいぶん背が高くなってたし、人違いかなと思って。それにもし落ちちゃったら恥ずかしいし。」

「舞に恥ずかしさとかあるんだな。入学初日にあんな浮いた自己紹介しといて。」

「相変わらず失礼だな。私を何だと思ってんの?!そういうとこだよ、女の子にモテない原因は。どうせ、この学校に来たのも、人間関係こじれて

リセットしてやり直したいからとかでしょ?」


ご、ご明察でございます、舞様。は、はぁーー(礼)


「じゃあ、舞こそ何でこの高校にいるんだよ? お前んちからも遠くね?」


そんな俺の言葉は聞いていないかのように早歩きで先を急ぐ舞。

全くこれだからこいつはと呆れていると、舞が横目で何かを訴えかけてくる。

商店街の横道に外れる舞に付いて行く。


『やっぱり、陵の言う通り、誰かついて来てるみたい。』

ひそひそ声で舞が呟いた。


俺も息を潜め、追っ手を待った。

汗がじんわりとシャツを濡らした。


すると数十秒後、誰かを探すように辺りをキョロキョロと見回す銀色おさげ髪の少女が俺たちの来た道に現れた。

何だかひょこひょこしてかわいい。

小動物を前にしたときのようなほっこりした気持ちだ。


「あの子ね!」

と舞は勢いよく道から飛び出し、少女の前に仁王立ちしてみせた。


「どういうつもりかな?ひそひそと後を付け回すような真似をして?」


少女に詰め寄る舞。

少女は、突然の舞の登場に仰天し、怯えている。

同じ高校の制服を着ているのに、女子高生が小学生を脅している風にしか見えないのは気のせいか。


「そ、そそそそ、そのリュック、わたしのなんです!」


少女は精一杯声をひねり出した。

三人の視線が舞の持つリュックに集中する。


「ま、まさか、そんなはずは...」


舞はリュックを肩から下ろし、急いで中身を確認する。

よく見ると少女も同じデザインのリュックを肩に下げている。


「間違えちゃったみたい♡」


笑顔で必死にその場をやり過ごそうとする舞だった。






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