春風に乗せて
第9話
浅川には、舞が会っていたのは中学のときの女子の先輩で、懇親会参加のお金を渡していたのだと説明し、舞が美人コスプレイヤーであることは伏せて話した。
事実を知って浅川は大層驚くとともに、盗撮したことを素直に詫びた。
そして、舞に現在彼氏がいないことが判明し安堵したのか、おいしそうにピザを平らげた。
◯◯◯
週明け月曜の放課後。
まだ体験入部期間だというのに、浅川はもうすでにサッカー部に馴染み、基礎体力作りやボール磨きといった雑務をこなしていた。
舞はアニメ研究部に入ると決めていたので、体験入部する必要はなかった。
であれば浅川同様、早速アニメ研究部に顔を出せばいいではと思うかもしれない。
だがアニメ研究部は、この4月時点で部員ゼロ。
去年の三年生が一年のときに立ち上げた部活で、彼らが他の学年が入部してくることなく卒業したことで、部室はあるものの部員はいない今の状況となった。
体験入部期間は正式に部活を始められないとかで、放課後舞は特にすることがなく、俺と帰り道を歩いていた。
「ところでさ、今期の彼プレ2期見てる?」
「めっっっっちゃ いいよな!
いや〜さすが柴わんこ先生原作だわ。
そして金沢アニメーションの美麗な作画。
どの女の子もイキイキしてるし、
opとedも世界観にマッチしてて
ノンクレジット版の動画、既に50回は再生したな。」
俺は学校という息苦しい空間から解放され、興奮気味に、今期俺的アニメランキング一位の彼プレ2期の感想を述べた。
誰かとこの気持ちを共有したくてしょうがなかった。
「去年の冬の劇場版は見た?」
「受験だったからさすがに見てねぇけど、Blu-rayは予約したぞ。初回豪華特典版でお年玉全部使い果たした。」
「さすがですな。」
舞は破顔し、並んで歩く俺との間の距離をぐんと縮める。
「じゃあ、これあげる。」
舞から唐突にランダム特典でありがちな銀色の小さなパッケージを渡される。
開けるよう促され、ベリベリ包装を剥がすと、
「うわっっっっっ!これ劇場版の入場者特典のアクスタじゃん。しかも俺の推しのミカじゃん!SNSで誰か譲渡してくれないか探してたけど、ミカだけ異様に値段釣り上ってて手出せなかったんだ。」
「お姉ちゃんと一緒に行って2個もらえたから、1個あげるよ。」
「まじサンキュ。一生お供するわ。」
「大げさだね〜。」
話しながら歩く俺たちの横を運動部の生徒たちが走り抜ける。
彼らが通り過ぎるまでしばらく沈黙が続いた。
「陵は高校では部活入らないの?」
急にそんなことを言い出す舞。
「う〜ん、今のところはいいかな。この学校、課題多いって聞くし。やってる暇ないかも。」
趣味時間を確保するためにもである。
「じゃあ、ちょうどいいね!」
「??」
「アクスタ、もらったよね?」
「いや、もらったけども......」
「私と一緒にアニメ研究部入ろうよ! お供してくれるんでしょ?」
そういって俺の腕をぎゅっと抱きしめる舞。
俺は先日見た黒ビキニと胸の谷間の光景を思い出してしまい、慌てて腕を払う。
恋人でもないのにこんなことすると、勘違いしてしまう男はたくさんいるはず。
美少女オタを隠してかわいい彼女をゲットするというプランは、あっけなくこいつのせいで破綻してしまった。
だが、こんなふうに二次元美少女の話で盛り上がれる日が来るなんて思ってもなかった。
舞と一緒にアニメ研究部も悪くないかもしれない。そう思い始めていた。
◯◯◯
そんな二人の様子を伺うように、50メートル後方を一人の少女が歩いていた。
身長145センチ、銀色の豊かな長い髪は三つ編みにして、先端を幼女が着けていそうなクマの髪留めで結っている。
幼い見た目だが、陵や舞と同じ高校の制服を着ている。
前を行く二人に気づかれぬよう、少女は時折電柱に隠れるなどして、完全にスパイになり切った気分だった。それはあくまでも彼女視点。
実際は、道行く犬に吠えられながら。
捨てられた空き缶に
この子、自覚がないが相当ドジである。
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