第7話
午後6時。舞は予定より30分遅れて俺の家に到着した。
玄関を開けてやると、
「ごめん、レッスンが長引いちゃって。」
舞は、ついさっき浅川から見せてもらった写真と同じトランペットケースを背負っている。
俺は無意識のうちに、ローファーを片足ずつ脱ぐ舞のすらりと綺麗な足を見てしまう。
スカートの長さはいつもと同じだろう。
だがこうして見ると、学校で見るときより、狭い玄関だからか、とても丈が短く見えて生々しい。
「トランペット?」
「そう」
「重いだろ、持つよ。」
「大丈夫」
と、あっさりと断られる。
いつもよりどことなくよそよそしい感じがした。
ふと脳裏に一緒に写真に映っていた男が思い浮かぶ。
「何時から練習してたんだ?」
「朝からずっと。発表会が近くてね。」
「それは大変だったな。」
舞は嘘を付いている。
浅川は昼ごろに舞を駅で見かけたと言っていた。
もしかしたら、練習というのも嘘かもしれない。
だが、俺はもう少し様子を見ることにした。
二人で二階の部屋に上がる。
「陵の家、来るの久しぶりだな。」
「そうだな。お前が中学に上がるタイミングで引っ越して、家が遠くなったしな。」
相手が舞とはわかっているが、女の子を自分の部屋に招くという行為自体、なんだか気恥ずかしさを感じてしまい、変に真面目になってしまう。
「わたし、吹部が忙しくなって、陵に連絡してなかったしね。あんなに陵にくっついてたのに、わたしったら、
「それはお互い様だ。」
舞が浅川同様、俺のコレクションをしげしげと眺める姿を、少し離れた椅子に座って見る。
「にしても陵の部屋、相変わらず宝の山だね。」
「これを宝と言ってくれるのはお前だけだよ。親からはゴミと言われてる。」
「そういえば、浅川くんは?」
「ああ、舞が来るほんの少し前に、ピザを買いに行ったぞ。デリバリーより持ち帰りの方が安いと知って、それならばと。」
「しっかりしてるね。ありがたい、今月お小遣いほとんど残ってなくて。」
「何にそんな使うんだ?」
俺は浅川の言うようにさりげなく聞いてみる。
「何って...陵と同じようにアニメのグッズ買ったり、イベントに参加したりしたら、すぐなくならない?」
「確かに、それもそうだ。」
舞が手に取った漫画からチラシが落ちた。
舞はそれを拾おうと、屈伸するように手だけ伸ばした。
おいおい、そんな格好したらパンツが見えてしまうじゃないか。
舞に気づかれないよう横目でチラチラ見ていると、パンツより先に意外なものが目に飛び込んできた。
舞の片方の太ももに黒い紐のようなものが見えている。
もしかしてパンツ?
いや、あんなところにパンツは履かない。
だったら紐パンか?
にしても位置がおかしい。
そして、似たようなものをどこかで見た気がする。
「柴わんこ先生、新作出すんだ。知らなかった。」
チラシを拾い上げ、あらすじを読み上げる舞。
だが、その内容は全く頭に入ってこない。
そうだ、あの太ももに巻かれたものは、ガーターベルトだ。
だが、なんで舞がそんなものを?
おしゃれで最近の女子は付けてんのか?
もしかすると、あのイケメンと何かいやらしいことでもしてたのか......
「ねえ、陵?」
振り返る舞。俺の反応がないのが気になったようだ。
「どうしたの?変な顔が、余計に変な顔してるよ。」
「余計なお世話だ。ごめん、考えごとしてて。」
俺は椅子から立ち上がり、トイレに行こうとしたところ、床に置かれていた舞のトランペットケースを思い切り蹴飛ばしてしまった。
その拍子に蓋が開き、中身が床に散乱してしまう。
「これって...」
「あっ!」
と叫ぶ舞。
出てきたのは、トランペットではなかった。
ピンクのウィッグと魔法使いの杖。
◯◯◯
「舞、もしかして」
気まずそうに目を逸らす舞。
俺は舞と目を合わせるため、舞の両肩を両手でつかんだ。
「舞、お前は騙されてるぞ。」
「は?何が」
舞は俺の大胆な行動に驚いたのか、頬を紅潮させ、目を泳がす。
「これは今期覇権を取ると言われているアニメのコスプレじゃないか。よりにもよって、なんでこれなんだよ。」
「どういうこと?」
「どういうことじゃねぇ。浅川が見たんだ、お前が今朝イケメンに金渡してるとこ。トランペットの練習しないで、お前、あいつと昼間っから何してやがった?」
「イケメン?お金?なんの話よ。」
「しらばっくれんなよ。」
舞が俺の腕から逃れようとしたところ、転がっていた魔法使いの杖に足を取られ、バランスを崩して転びそうになる。
俺は舞の頭を守ろうと、舞を抱え込む形で二人ベッドに倒れ込んだ。
俺は目を
柔らかいが重みのある舞の体が俺にのしかかる。
プチプチっと何かが弾ける音がした。
舞は慌てて、すぐさま俺から上半身を起こす。
目を開けると、眼前には黒いビキニと胸の谷間が。
どこまでも白く、どこまでも神秘的な光景だった。
「「ごめんっ」」
俺たちはすぐさま距離をとり、互いに背を向ける。
「ごめん、俺強くし過ぎた。」
「もう...いきなりでびっくりした。」
二人ともきっと頭から湯気が出そうなぐらい、顔が赤くなっているはずだ。
心臓が止まるかと思った。
「陵に見られると、なんでこんな恥ずかしいの...」
舞の切なげな声と、
プチプチっと今度はボタンを付ける音が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます