第6話

高校に入学して初めての週末は、あっという間にやってきた。

オリエンテーションばかりで特に頭は使わなかったが、慣れない人や環境でエネルギー消費の多い一週間だった。

来週からは授業も始まるだろう。勉強は中学より格段に難しくなるはずだ。

部活に勉強に恋愛に、ときどき親との口喧嘩に、学生は結構忙しい。


幸い、俺は親とはうまくいっている方だ。

こうやって夕方友達を家に呼んでも、特に何とも言われないのは、俺の日頃の行いが良いからである。

久しぶりに俺が友達を家に呼ぶからと気を遣って、夫婦仲良く着飾って、ディナーに出かけて行った。


◯◯◯


午後5時、俺がギャルゲーにいそしんでいると、部活上がりの浅川が先ずやってきた。

どこかで待ち合わせて案内しても俺はよかったのだが、浅川は近くに親戚の家があるとかで、この辺の地理に詳しく、位置情報のリンクを送るだけで良いと言われた。


家に上がった浅川は、運動後で汗臭いかと思いきや、学校でシャワーまで済ませてきたとのこと。

爽やかな石鹸せっけんの香りをまとい、差し入れにコーラまで買ってきた。

なんてできたやつだ。


俺の部屋に入るなり、さまざまな美少女グッズで飾られた壁や棚を興味深そうに見渡している。


「すっげぇー。よくもまあ、こんな集めたなぁ。」

未知の世界にまぎれ込んだかのように、口が半開きの浅川。


「これ全部ではねぇけどな。ここにも閉まってあるぞ。」

と、俺はクローゼットを開け、段ボールの箱をいくつか開いて見せた。


「いくらで売れるだろうな?」

「限定特典とか初回限定とかレアなもんばっかだから、安くはないはず。...ってか売る気はないがな。」


浅川は、舞が来てから趣味の話をした方が良いと思ったのだろう。

本棚からてきとうに一冊ラノベを取り出すと、ベッドに腰掛け、読み始めた。

俺はゲーミングチェアに座り、ゲームの続きをしようとコントローラーに手をかける。


しばし沈黙。こういうとき何を話したらいいんだろうか。


背後からプシュッという音が聞こえる。

浅川がコーラのペットボトルの封を切ったようだ。


「宮前さ、舞ちゃんのこと好きなん?」

舞がいないうちに確認しておきたかったようだ。

答えによっては、今後の俺への接し方が変わってくるだろう。


舞の顔を頭に思い浮かべ、自分に問いかけてみる。

久しぶりに再会して、大人の女性に成長した姿に驚いたし、かわいいとは思った。

けれど、正直それが異性に対する好きかと問われると、言い切れない自分がいた。


「ただの幼なじみだ。」


「そうか。これを見てもそんなことが言えるか?」

出し抜けに浅川が自分のスマホの画面を見せてくる。


そこにはいつもの制服姿の舞が、はじけるような笑顔で映っている。

背中には楽器を入れるような大きめの鞄を背負って。


そして、その横には20代くらいの若い男。しかもかなりのイケメン...


二人で楽しそうに話しながら歩いているのを、浅川が隠れて写真に収めたのだろう。


舞は女子高生なのだから、学外に彼氏がいても何らおかしくない。

けれど、舞が自分以外の男といるのを見ると、変な感じがした。


「確かに、驚いたが......盗撮じゃねぇか、これ。」

「昼過ぎに学校行くとき、駅で偶然見かけたんだ。彼氏だろうか?」

「かもな。」

浅川は頭を掻きむしり、苦悶くもんの表情だ。


「なあ、後で聞いてみてくれよ。」

「『この写真の男は彼氏か?』ってか?」

「ばか。それとなく聞いてみるんだよ。」

「いいのか、聞いて。お前、ショック受けねぇか?」


浅川はベッドから立ち上がると、部屋を意味もなくうろつき始める。

「それより俺は心配なんだ。」

「何が?」

「舞ちゃん、この男に渡してたんだ。」

「...そうか、金か。って、お前どんだけ観察してんだよ。」

「このせいでサッカー部の練習30分遅刻して怒られた。」

「バカか。」

「いとしの舞ちゃんに何かあったら不味いだろ!あいつの尻尾を捕まえようと思ってな。そしたら案の定だ。はぁ、これだからイケメンは。陵なら安心してそばに置いとけんのにな。」

「さらっと何してんだ。」

「わるい、わるい。だけど、ほんとによく注意してみておいた方がいいかもな。俺はまだしも、幼馴染の陵ならな。」


浅川の最後のセリフが俺の心を揺り動かす。


世間を知らないからこそ、大人の男に遊ばれる女子高生は多い。

まして舞は、俺同様二次元に浸ってきただけ、世間一般の女子高生よりかなりうといはず。


浅川からもらったコーラを開け、喉の渇きを潤す。

炭酸がいつもよりキツイ気がした。


















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