第5話

「諸星さん...」

俺と舞の慣れた会話に参加するのに、浅川はまだぎこちない。

「舞でいいよ!」

舞は、出来立てほやほやのオムライスをはふはふとほおりながら答える。


「ありがとう。舞はさ、中学のとき何の部活してたの?自己紹介ではアニメ研究部に入るって言ってたけど。そんなのうちの高校だけで、中学にはなかったでしょ?」

浅川は、舞と少し距離が縮まった手応えを感じて顔がほころぶ。先程の俺との会話で足りなかった情報を補填ほてんしていく。


「あれ、言ってなかったっけ?」

とキョトンと不思議そうな表情の舞。


「うん、俺も知らない。」

俺はラーメンをすすりながら、ぼそっと呟く。


「えぇ、陵も?!そっか、言ってなかったか。私はね、吹奏楽部で三年間、トランペット吹いてた。」

「トランペット? 舞が?」

俺は思わず麺を詰まらせ、むせ返る。


「かっこいいね、諸星さ...いや舞。

トランペットを小高い丘の上で、はぁ......」

浅川は、トランペットを吹く舞の姿を想像しているのか、なぜかうっとりした表情で中空を見つめる。

ん、小高い丘?どっから出てきたんだ、その発想は。


俺は水を飲んで落ち着いて聞く。

「お前にしては意外だな、そんな特技があったとは。」


「今度吹いてるとこ、見せてあげてもいいよ。うちの中学はね、吹奏楽に結構力入れてて、毎年県大会は金賞取るくらいだったのよ。」


「高校ではもうやらなくて良かったのか?」


舞はスプーンを一旦いったん皿に置くと、

「うん、もういいかなぁと思って...私の中ではやりきった感があって、高校では別のことやりたくなったの。

でもね、トランペット吹くのは好きよ。だからそれは趣味として、教室には通い続けるつもり。」


「楽器をたしなむとは、柄にもなく、お嬢様っぽいことしてんじゃん。」

「は?!」

舞は下唇を突き出して抗議し、俺は鼻であしらう。


「それはそうと、二人とも一緒にアニメ研究部入らない?」

「俺はパス。言っただろ、俺は二次元美少女好きは隠して、高校生活を公私ともに充実させるんだよ。」

「もうクラスのみんな、陵がオタクって知ってるよ。」

「誰のせいだよ。」

「このわたし!」


浅川は、俺と舞の掛け合いを横で腹を抱えて笑いながら、

「折角のお誘いで申し訳ないけど、俺はもうサッカー部に入るって決まってるしな。」

と爽やかに断る。

浅川は、この高校にサッカーの推薦で入学したとかで、高校でも続けるのはもはや宿命だった。


誘いを断られて悲しそうな舞を見て、浅川はこう提案してきた。

「二人ともさ、今度の週末は用事ある?」


「週末? 特に何もなかったと思うが...それがどうかしたか?」

「今週末か。夕方からなら空いてるんだけど。」


「それならちょうどいい。俺も15時まで部活だから、夕方三人でどっかで飯食わねぇ? それでさ、宮前んち行ってみんなで遊ぶってのはどうだ?」


「それ、いい!」

舞は目を輝かせる。

その目にはきっと、俺んちの美少女グッズが映っている。


「俺、宮前におすすめのアニメ紹介してもらったし、舞にも教えてほしいな。」

「いいよ!いいよ!」


「おいおい、飯までならまだしも、何勝手に俺んちに集まることになってんだよ?」

「ダメだった?」

と、小首を傾げる浅川。

何、美少女風に言ってんだ!


「いや、ダメではねぇけど。俺んち駅から遠くて、食べるとこ何もねぇよ。」

「じゃあてきとうにデリバリーするってのはどうだ?」

「わたし、エビマヨのピザがいい。陵、注文と支払いよろしくね。」


俺は自室を頭に思い浮かべ、二人がいるところを想像する。

「わかった。まあ、じゃあ俺んちでいいけど......

って、おい、何支払いまでさせようとすんな!」


舞がすっかり元気を取り戻した様子なので、俺は嫌とは言えなかった。

というよりは、高校生仲良しグループ×誰かの家という、青春アニメでありがちなシチュに若干興味が湧いていた。


まあ、今回は浅川がいるし、女の子って言っても舞だから、ハーレム状態は望めないが。


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