第4話

 昼休み、連絡先を交換しあった俺、浅川、舞の三人は学食に来ていた。

何でも、うちの学校は、学食が市内一おいしいことで有名らしい。

毎年中学三年生向けに開催されるオープンキャンパスでは、学食を無料で提供する。

それ以外にアピールするところはないのかよ、とツッコミたくはなるが、学校にいる時間で一番食事が楽しい俺にとっては、かなり価値がある。


食堂はお昼時とあって、全学年、たくさんの生徒でごった返している。

厨房ちゅうぼうで働くおばちゃんは、ぱっと二人。快活に注文、配膳をこなし、人当たりが良さそうだ。


天井から吊り下げられた2台の大きなモニターには、今日の学食のメニューの写真が、数秒ごとに画面が切り替わる形で、いくつも紹介されている。


「ほんとだ、ここの学食評判なだけあるね。オムライスにビーフシチューまである!普通に町のレストランじゃん、ここ!」


舞は、小学生が持ってそうなファンシーなお財布を両手で挟み、眉根まゆねを寄せ、真剣に何を食べるか考えている様子。


「あ、二人は先に注文しといて。俺、ちょっとサッカー部の先輩に挨拶してくる。」

浅川はそう言って俺たちから離れ、テーブル席に座る4人組の男子の先輩の元に行くと、へこへこと頭を下げ、何かノリ良く受け答えしている。


入学してまだ間もないのにもう顔を覚えられているのか、と俺は浅川のコミュ力に素直に感心していた。


それを見た舞が、俺の肩に片手を置き、

「陵にはできそうにないね。ああいうこと。」

揶揄からかうように耳元でささやく。

そのときに、近づいた舞の胸が俺の腕に当たる。


不甲斐ふがいなくも、その胸の弾力にドギマギしてしまう。

俺は、誤魔化ごまかすように

「うるせぇよ......でも、まあ、舞の言う通りかもな。」

と、舞の片手を振り払って距離を取りつつ、賛同の意を唱える。


まったく、こいつはパーソナルスペースがないのかよ!


「そういう舞も、上下関係とか苦手そうだけどな。」

「そんなことないもん! これでも中学のときは、面倒見の良い先輩だったのよ。卒業するとき、後輩たちみんな泣いてたもん。」

「語尾が『もん』の奴は、大抵ショボいと相場が決まってんだよ。

舞がいなくなるのが嬉しくて、泣いてたんじゃねぇの?」

「失礼ね! もういい。陵としゃべってたら、ムカついて余計にお腹空いてきた。私、オムライスにするもん。」


舞はトレーを一枚手にすると、ほおふくらませ、そそくさと洋食の列に並びに行った。


胸の感触がまだ腕に残る中、

俺はラーメンが食べたくなって麺の列に並ぶことにする。

すると、そこに挨拶を済ませた浅川が合流してくる。


「舞ちゃんと何話してたんだ?」

「舞が中学の部活の後輩にしたわれてたって話。」

「へぇ、何の部活?」

「......それ聞いてなかった。」

「何? 宮前って中学は舞ちゃんと一緒じゃないんだ。

すげぇ自然にしゃべってるから、てっきり中学も一緒なのかと思ってた。」


俺は厨房のおばちゃんに塩ラーメンを頼み、460円を渡す。

同時に浅川も注文を聞かれ、『カレーうどん』と返答する。


「いいや。たしかに、小学校卒業してから一回も会ったことなかったけど、意外とラグなくしゃべれるもんだな。まあ、あいつは見た目はだいぶ変わったけど、中身は変わってなさげだし。」

「舞ちゃん、どこ中の出身なん?」

「泉善学園だよ。制服がかわいいってだけで、中学受験して入ったんだ。」

「泉善ってお嬢様学校じゃん。舞ちゃんのイメージとぴったりだな。制服姿、見てぇー」

「直接頼んで、写真見せてもらえよ。」

「そっか。」


頼んだ塩ラーメンとカレーうどんが同時に出てきた。

俺たちは湯気の立つどんぶりをトレーに乗せる。

振り返り、テーブル席の並ぶフロアを見渡し、空いた席がないか確認する。

すると奥の方のテーブルに、既にオムライスをゲットした舞が着席し、俺たちに向かって『こっちだよ!』と片手を振っている。


遠目に見ても、舞はくっきりとした目鼻立ちの綺麗さで、周囲に異彩いさいを放っている。


浅川は、自分の置かれた立場に嬉しさを隠しきれず、不敵ふてきな笑みを浮かべてトレーを運ぶ。

俺は、あからさまな浅川がおかしくて

「お前、今ニヤニヤしてるぞ。」

と教えてやる。


「お前もだぞ。」

と返す浅川。


どうやら俺たちはタイプは違うが、気が合いそうだ。



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