第3話

 それからというもの、浅川は休み時間の度に俺の席に来ては、どうでもいいこともそうでないことも話しかけてきた。

俺なんかじゃなくとも、もっと浅川にふさわしい話相手はいるだろうに。

積極的に話しかけてくる浅川は、単に舞に好かれるためのきっかけとして俺を利用している感はなく、純粋に男友達として俺を扱ってくれているようで、少し嬉しかった。


「宮前、ちょっとこっち来て。」


浅川に教室の後ろの方に来るよう呼ばれる。


浅川は本来であれば学校に持ってきてはいけないスマホをポケットから取り出す。

休み時間だから教師はいないが、俺は念のため廊下に教師の姿が見えないことを確認する。


「何?」

「じゃじゃん!俺とお近づきになった印に、いいもの見せてやるよ。」

浅川が楽しそうにスマホの画面を見せてくる。


「これっ!!」


見せてきたのは写真。

『お気に入り』という名前のフォルダには、それはそれはまあ、たくさんのピンクなお姉さんの写真が並んでいる。

しかも、コスプレものばかり。


とても日中の、こんな公共の場所で見てはいいものではないと自覚しつつも、折角浅川が見せてくれてるんだ、と見てやることにする。

幸い、周りに女子はいない。


「俺も男だから見なくもないけど、これはすさまじいコレクションだな。」


周りをもう一度確認し、俺はもう少し真剣に画面を眺める。


「お前はコスプレが好きなんだな。」

「ああ。これはネットで拾ってきたやつ。それでこれは去年のハロウィンのときの。」

浅川は画面をスクロールし、お気に入りを見せてくる。

「へぇ、拾い画だけじゃなくって、自分でも撮ってるのか。」


同じ女の子をいろんな角度から撮った写真が並ぶ。

どの子もそれなりにかわいいが、俺はつい先日街で目にした美少女の方がかわいかったなと思い出し、自分のスマホを取り出す。

確か一枚撮らせてもらったはずだ。


「コスプレなら、俺も撮ったのあるぞ。」


「え、どんなの?」

俺のスマホを興味津々に覗き込む浅川。


「うわっ!マジでかわいいじゃん。これは奇跡の一枚だわ。レベル高っ!これどこで撮ったの?」


「池袋でイベントやってたみたいなんだ。人が集まってるから、何があるんだ?と思ったら、この人だった。」


「これは人集まるわ。ってか、おっぱいでかっ!」


「声がでかいぞ。俺がお前にやらしいの見せてるみたいになっちゃうだろ。」


「ごめん、ごめん。」


「ところでこれは何の衣装なん?」


「コスプレ好きなのにアニメには詳しくないんだな。これは今期の覇権はけん候補の魔法少女アニメの主人公だな。」


「へぇ、さっすが。詳しい。」


「なあ、その写真よかったら俺にも送ってくれよ。」


連絡先の交換ついでに、すぐさま浅川に写真を転送する俺。

いや、写真を送るために連絡先を交換したという方が正しいか。


「何してるの?」


女の子の声が聞こえる。

俺たちのそばでそう尋ねるのは、よりにもよって舞である。


俺たちは写真の中の美少女に集中するあまり、脇が甘くなっていた。

俺は慌てるあまり、自分のスマホを落としてしまう。

しまったと思った時にはもう遅い。

舞が反射神経良くそれを拾い上げ、画面をのぞく。


「あ、それは、その。この前、偶然撮っただけで。みんな写真撮ってたから、きっと有名な人なんじゃないかな。

気合の入ったコスプレだよな!舞もそのアニメ好きだろ?

......エロい目的とかじゃなくって、あれだ、あくまでも芸術の一環いっかんとしてだな。」


「やだー、宮前くん。俺にそんなの見せちゃって。俺にはまだ早いよ。」

簡単に俺を売る浅川。


「いや、何、俺を悪者にしてんだ。お前のほうがいっぱい......」


じゃれ合う俺たちをよそに、数秒真剣に画面を見つめる舞。

さすがに引かれてしまっただろうか。


「確かにこのコスは、完成度高い。原作へのリスペクトを感じるね。

そして、めっちゃかわいい。」

と手をあごに添え、目を細め、何かの専門家のようにうなずく舞。


「だろ?やっぱ、舞はよくわかってるな。」


俺は正直、舞がどのような反応を見せるかわからなかった。

舞が二次元美少女好きなのはもちろん知ってはいたが、2.5次元もいける口なのかは微妙だった。

だが、いつもの二次元に対峙たいじするときのように、表情は明るく、声のトーンは高い。


「そうだ、諸星さん。俺と連絡先交換してよ。今、宮前にも教えてもらったところなんだ。」


「いいよ。」

と、笑顔でスマホを取り出し、浅川と横並びになる舞。


いつもの舞と変わらない。大丈夫。

俺は安心しきっていた。











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