第2話
体育の初回は、体力テストだった。
グラウンドには体操服を着た男女が集まり、男女別れて体力テストの項目をこなしている。
お互いの距離は少しあるものの、男子は女子を、女子は男子を横目でチラチラと意識しているのがわかる。
男子は、単純に女子の制服では図りきれないスタイルのチェックといったところか。
女子は、男子の運動神経でも見ているのか。
あるいは男子たちの普段の様子から、どの男子が他の男子たちから認められているか、計っているのか。
女子は、無意識の内に男子を格付けしていると、何かの本で読んだことがある。
俺は比較的空いているハンドボール投げの列に並び、自分の順番が来るのを待っていた。
ちなみに俺は女子からの視線を感じていない。
唯一感じるとすれば、後方の男子からだ。
確か自己紹介でサッカー部に入ると言っていた
浅川の日に焼けた硬質な筋肉と爽やかな雰囲気は、俺のにわか作りな見た目と違い、正真正銘本物だ。
中学三年間帰宅部を続けてきた俺が、いまさら運動部に入って女の子にモテようとしても、体を鍛えるのに手一杯で、恋愛に
だからせめてもと、体力以外のところで勝負するしかない。例えば知性とか......?
「俺、浅川。よろしく。」
「宮前だ。よろしく。」
簡単に挨拶を済ませると、
「諸星さんと知り合いなんだって?」
と浅川は舞の話を始める。
「ああ、そうだけど。」
俺はモブ扱いされた気がして、やや雑に返答する。
「いいな、あんな子と幼なじみで。そのポジション、いくらで譲ってくれる?」
浅川の視線の先には、離れたところで反復横跳びに取り組む舞がいる。
舞は髪を一つに結び、必死ながらもどこか楽しそうだ。
俺は無意識に揺れる舞の胸を見てしまい、後ろめたい気持ちになる。
「そうだな、1000万で手を打とう。」
「1000万か......分割でも良いか?」
俺は『一体何年かけて返済するつもりだ?』と苦笑しつつ、浅川はこう言う。
「俺、今までサッカーばっかやってきて、女子と付き合ったことないんだよな。普段も男友達と話してて、諸星さんとどんな話したら良いかわからん。普通の女子と違うみたいだし。」
浅川は人当たり良く、一見モテていそうなだけあって意外ではあった。
確かに、舞は一風変わっている。
「舞は、てきとうに美少女アニメの話題ふりゃあ、一人でしゃべるよ。それ聞いてるだけで喜ばれるよ。」
「なるほど。さすが幼なじみセンパイ。でもその話題ですら、どっからとっかかればいいか、わかんねぇよ。」
「試しに漫画とかアニメ見てみろよ。おすすめならたくさん紹介してやるぞ。」
求められずとも布教活動してしまうのが、オタクの性である。
「ホントか? 諸星さんが好きそうなやつ教えてくれよ。」
『いいぞ』と返答し、俺の順番が回ってきたところで話は中断する。
浅川は話しやすい。
オタクだと決めつけて関わろうとしない中学の同級生と違い、浅川は偏見なく人を見られるいいやつっぽい。
彼女がいたことないというところに、俺は勝手に仲間意識を感じてしまったのもある。
舞が好きで、二次元美少女初心者・浅川におすすめできる作品......
そんなことを考えながら、投げたボールが落下した地点までの距離は、同年齢の男子平均を大きく下回る結果となった。
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