星の降る夜空の下で。

きらり

第1話

 その日、高校生の相澤圭祐あいざわけいすけは涙が流れる程に美しい夜空を見た。


 目に飛び込んでくる星の光は散り散りに飛び交い、キラキラと輝く光を放っている。


 ああ、どうしてこの夜空を彼女と見れないのか。


 圭祐は濡れた目元を拭い、瞳を閉じた。


 静かな夜だった。風に揺れる木々の音。遠くの方でなく虫の声。近くに流れる川のせせらぎが、ゆっくりと心に染み込んでいく。


 暗くて見えない視界に、ぼんやりと彼女の笑顔が写る。色とりどりの紅葉のように明るくて眩しい、その笑顔を思い出すたびに涙が落ちる。


 ああ、どうして彼女はいないのか。


 一滴の雫と、満面の笑み。流れる悲しみと、幻の嬉しみ。


 彼女と会えないという寂しさは、どんどんと圭祐の心をむしばんでいく。


 圭祐はまぶたを揺らした。除く景色はまるで天の川のように煌びやかで、彼女と一緒に見たかったという思いが膨らんでいく。


 ああ、もう一度会いたい。記憶の中から帰ってきてくれないか?


 圭祐は夜空を見上げ、そう願う。一縷の望みかけるように。


『あっ!流れ星』


 キラリ、と星がまたたいて、同時に誰かのそんな声が聞こえた気がした。


 後ろを振り向くが、誰もいない。左右に続く堤防にも見える範囲に人はいなかった。


 一抹の期待。ありえたかもしない現実。それらはやはり、眉唾物でしかないのだろうか。


 そう思い、圭祐は前を向いた。川の流れはずっと一定で、それを見ていると、いつまでもこうして挫けていてはダメなのかと思えてくる。


 失った人は帰ってこない。それが現実だ。


 いくら流れ星に身を委ねたところで、それを変えることはできないのだろう。


 圭祐は立ち上がり、歩き出す。


 またもう一度、キラリ、と星がまたたいて、キラキラと光るその星の中に、一筋の線が入った。


『また会おうね、圭祐くん』


 圭祐は夜空を見上げた。今度ははっきり聞こえたその声は、圭祐がずっと会いたかった彼女の声で………


「うん。また会おう」


 圭祐は泣きはれた目をそのままに、そう返していた。


 


 その日。家に帰った圭祐は、布団の中で泣き崩れた。ぼろぼろと溢れて止まないその塩の結晶は、シーツを濡らし、服の袖がぐしゃぐしゃになっても止まることはなかった。


 

 どのくらい泣いたのだろう。まだ目尻には雫が残っていて、いつまでも溢れてくる。


 夜も深まり、段々と微睡まどろむ思考の中、圭祐は夢を見た。堤防沿いの河川敷で、彼女と夜のひとときを過ごしている。


『ねぇ、圭祐くん』


『なんだ?』


『今日は私と一緒だね?』


『うん。そうだな。』


 圭祐はそう言って彼女の作ってくれたお弁当を一口頬張った。卵焼きの甘味が口いっぱいに広がった気がして、思わず口角が上がる。


『おいしい?』


『ああ、おいしいよ』


『ならよかった。頑張って作ったかいがあったよ」


 彼女は満面の笑みを浮かべた。その表情が見れただけで、圭祐の心が跳ね上がる。


『なんだか不思議だなぁ〜夜にこうして二人でお弁当を食べるだなんて』


『本当だな、だから嬉しいよ。今日こうして一緒にこの場所に来れて』


『どこにも行けてなかったもんね、私たち』


 はじめての二人でのお出かけは、夢の中。夜の堤防へ。


『あっ!流れ星だ!』


 意気揚々と彼女が声を上げた。


『願い事しないと!ほら。圭祐くんも早くしないと叶わなくなっちゃうよ!』


 二人は同時に夜空を見上げる。その眼差しは遠くに見える星々を捉えていて………


 二人は願った。


『『ずっと一緒にいられますように』』


 最後の雫が垂れたのは、圭祐が目覚めた後だった。



 

 

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星の降る夜空の下で。 きらり @Kiyopon86

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