第11.5話 思わぬ情事。
「ん……」
ゆっくりと舌が撫でられ唾液が
――力が入らない。
首を固定するのは体の自由を奪う基本だけど、分かってやっているのかしら。
手がブラジャーの上から胸を包み舌の動きと同じように緩慢に撫でる。しかし指が下側からするりと入り込んだ。
「んッ……」
びくりと体が震える。
――確かに付けたままだけど……
最早関係なく胸がブラカップとの間でやわやわと解されていた。口が塞がれたままどう抵抗していいか分からない。
と、答えるように唇が離れた。解放されてそのまま頭を胸板に預ける。だけど乳房に添えられた手は離れず今度は唇が
そのまま耳、肩、腕、手の甲と――
気が付けば背は倒れて仰向けになっていた。続いてお腹、
――なんかこれって……
本当の情事のようだ。
これが……
正直に言ってこういう形になるとは思っていなかった。体の一部分を触るのを許可する、痴漢ではなく選んだ相手に。そうして『いやらしいこと』への嫌悪感に対する耐性を付けたいという主旨なのに。
やっぱり話、聞いてないじゃない――
体の各所へ口付けの挨拶をしていたように今度は手のひらが優しく触れてそれらを繋げていく。まるでエステにいるような心地よさだ。不思議といやらしさが感じられない。手の温もりに体の緊張が解けてほぐれていく。
すっかり油断しているとしかしその範疇をあっさり超えてきた。乳房を包んだ掌の指先が先端を摘んだ時
「アッ……」
自分から漏れた嬌声的な響きに驚いた。
それが合図のように今まで温められてきた体が発火していく。
体が重なっている――
いつの間に脱いだのか直接肌が触れ合っている。冷たく硬質な男性の肌。柔らかい肌が受け止めて密着する。異質なものが噛み合わさるような一体感。
そう感じてしまった後は男性的な手が体に触れる度肌が痺れた。感電したようにピクリと勝手に震え信号が脳に逆流していく。
快感に変わって――
人の手が触れているだけなのに電気が流れて
肌の外から伝ってきた筈なのに
体の芯から熱くなっていく
この熱をどうにか鎮めて欲しい
求めるように首を引き寄せ唇を開いた。
確かに良かった。理性なんて脆いものに頼らず前提を立てておいて――
「んん……」
カーテンの隙間から差し込む陽光で目が覚めた。いつ以来だろう。ぐっすりと熟睡したように爽快だ。軽く伸びをする。心地よく体が解れて――
ハッとして隣を見た。
男が眠っている。
昨夜――
途中から記憶が曖昧だが、少なくとも下着は身につけていて安堵する。
それにしても霧崎君なんかにあんな反応を見せてしまうなんて。別にその重みが自分と同じ感覚だなんて期待してた訳じゃないけど、デートでは女慣れしていない風を出しておいて『そういう経験』には慣れてるなんてやっぱり最低――
だんだんと腹が立ってきた。
折角気持ち良い朝だったのに、台無し。
下着姿でいるのも信じられない余所余所しい気持ちになって急いでベットを降りた。スプリングが揺れるが彼は気持ちよさそうに眠り呆けている。
自分の寝室からこんな風に逃げるように出るなんて――
クロゼットから手早く洋服を取り出して扉を閉める。ブラウスのボタンを留める時に気が付いた。体に仄かに紅を入れたような跡が幾つも……。自分だけの体だった筈なのに知らない間にまるで所有印を押されたようだ。
「やってくれたわね、霧崎君……」
『そんな隙』を見せた自分を呪って溜息を吐くしかなかった。
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