動画
『ごめんなさい』
送られた動画にはベッドに腰掛けている心が映る。
ちょこんとあの時のパジャマ姿で座っている。
本当に心の部屋だ……気持ち悪さしかない。
『んー大丈夫。逆に、俺でいいの? 動画も撮るけど』
『うん』
淡々とした返事。
『心ちゃん、可愛くなったね』
『ありがとう』
沢城のいい加減な口説きを容易く躱す。
動画は一旦真っ暗になり、雑な編集というのかぶつ切りで、次の映像に移動していた。
この映像の行為よりも目に留まったのは、パジャマがはだけ、ブラも上にずらされた心の白い肌と、お腹や胸元に青紫の痣。
薄っすら黄色が輪郭のように痣を囲う。
沢城の手が痣に触れた。
心は手を払おうとするが、掴まれている。
『これ、どうしたの?』
『ちょっと前に階段で転んだだけ』
『ふーん……へぇー』
そんなやり取りのあと、沢城の指示で、初めての行為を次々とやらせている映像ばかりが続く。
気持ち悪さと同時に込み上げてくる熱さに、ズボンが鬱陶しくなってくる。
真っ直ぐに心が見つめているのはレンズなのか、沢城なのか分からない……――。
シーツがぐちゃぐちゃになって、汗やら何やらで濡れた小さな体は大きく呼吸を繰り返す。
蕩けたように瞼が半分閉じて、やや放心状態。
数秒後、何か思い出したように寂し気な表情を浮かべた。
顔を手で覆う。
『…と……くん』
震える喉で誰かを呼ぶ。
汗で頬にくっついた髪の毛ごと撫でられている。
『ごめんなさい』
ボロボロと涙を零しながら謝っていた。
『ごめんなさい』
なんで、謝るんだ。
『ごめんなさい、ごめんなさい…………ごめんなさい』
そして、この動画が俺の手元にある唯一の、
『彼女が生きていた記録』
となった。
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