幼馴染の心
3年前、高校2年生の後半時期だった。
寒かった、あの時だけは異様に寒かった……――。
「お、お、おはよう春斗君」
ちんちくりんで挙動不審な女子、心。
成績は可もなく不可もなく、髪を染めたことがなく、化粧もしたことがない。
人と目を合わせるのが苦手。
「おはよう……」
小学校の時から家が隣同士で付き合いもあるのに、未だに俺とも目を合わせない。
並んで歩かない、後ろをゆっくり歩く。
「どうした?」
行動を突っつくと、目が泳ぎ、顔ごとキョロキョロ周りを見る。
「あの、えっと、なにも、あ、その」
「ごめん、ゆっくり来いよ」
「あと、えと、う、うん、ごめんなさい」
心を置いてさっさと学校に向かう。
授業の時でも、
「それじゃこのページを、えーと3列目の2番目、読んでくれ」
「あ、は、はい」
先生に当てられて、おどおどしながら読む。
「翌年、監察御史、陳郡のえ、えん、えとえん」
周りは黙っている奴と、クスクス笑っている奴で分かれた。
目は完全に焦点が合わず、見るからに焦っている。
手助けしてやりたいけど、席は遠いし、今喋りかけてもテンパってしまって聞こえない。
「袁傪」
どこからか、爽やかな声が聞こえた。
心の後ろの席にいるイケメン、沢城。
「あ、えと、袁傪という者」
珍しく聞こえたのか、心はそれから躓くことなく読んでいく。
沢城はクスクス笑っている側だったけど、他の奴らと違って助けた。
休憩時間になると、
「漢字、読めないところはフリガナふっといた方いいじゃん」
沢城が軽く心にアドバイス。
「えと、あ、ありが」
「しっかり!」
心が言い終える前にいつもつるんでいるグループのところへ行ってしまう。
クスクスどころか、大きな笑い声が教室中に響く。
挙動不審に目をキョロキョロ動かしているが、多分、照れているんだろう。
帰り道、また心はゆっくり、俺の後ろをついてくる。
「沢城に助けられてたな」
後ろに声をかけた。
「え、あっ、うん……うん」
「毎回笑われて、嫌になるだろ?」
「あ、その、平気、いつ、いつものことだから」
「ふーん。もうちょっとしたら進路だけど、心も進学するんだよな?」
「あ、ぅ、うん、大学に」
「じゃあまだまだ一緒なわけだ。楽しみだろ、大学」
「うん、うん、勉強、がん、がんばらなきゃ……そのダメ、だから」
「そうだな」
お互いどんな顔して喋ってるのか分かってないけど、心はキョロキョロ顔を動かしてるだろうなぁ。
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