ただ大学生男子が過去の話をするだけの短いお話

空き缶文学

本編

過去話の前に

 大学構内の食堂。

 同じ学科の友人達と昼食中のことだった。


「なぁーまだ時間あるし、ちょっとババ抜きしない?」

「またアナログなもんを、何賭けよ」

「罰ゲームの方がスリルあるだろ、な?」


 やるだろ、と勝手にカードが配られた。

 罰ゲーム……。


「せっかくだしさ罰ゲームも昔っぽいことしよう」

「はぁ? 何すんの?」

「そうだなぁー」


 友人は食堂を見回している。

 肌がピリピリ、と張り詰めるような感覚がした。

 嫌にも一度染みついてしまったあの光景が、勝手に浮かび上がる。


「柳にしよう、ビリは柳に告白」


 床を削るような、イスの脚が擦れる音を立てた。

 友人達の視線が一気に俺へ。

 

「……他の罰ゲームに、した方がよくない? そんなのだっせぇし」


 反射的だった。

 取り繕うように提案するが、友人達は怪訝な顔。


「子供じゃないんだし、柳なんか特に変わってるから本気で捉えるわけないって」


 お前らもだろうが……。

 子供だからって許されるものでもない。

 柳、柳は奥のテーブルで黙々と読書に集中している。

 黒髪を後ろに結んで、ラウンド型のメガネ。

 落ち着いた色の服装、絶対に入ってくるなとパーソナルスペースを広範囲に張っている。

 彼女がどういう人か、面識がほとんどないから分からない。

 軽率な発言のせいで胸糞悪い。


「……もし本気で捉えたらどうすんの」

「はぁ? そりゃ罰ゲームでしたぁ、って言えばいいじゃん」


 友人達はただ軽く笑っている。

 一瞬にして、クズと書かれたコピー用紙を顔面に貼りつけられた集団のように思えた。

 

「っざけんなよ」


 予想以上に喉が重く、声が低くなる。

 クズ集団はお互い目を合わせて、重々しい空気に戸惑っていた。

 やってしまった……別に、こんな空気にさせたかったわけじゃなかったんだ。


「ごめん、俺はやらない」


 居心地悪さにグループを抜け出す。

 また、俺はやってしまうんだろうか……――。

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