おさぼりえっち?

朝の甘えんぼう

「ね~え~、ぬ~い~く~ん~」

「……」

「ね~え~ってば~」

「何度言われても、何を言われても、ダメだよ」

「どうしても~?」

「どうしてもも何も、ボクの意思じゃどうにもならないんだから……もう諦めなよ」

「だって~」

「……」


 時刻は朝。

 平日の朝。


 出社しようとしていたボクの体は、ひーくんによって足止めを受けていた。


「ぬいくん……」

「そんな目で見たってダメだよ」


 たまにこういう日がある。

 朝に起きているのも珍しいひーくんが、だだっこのようにわがままを言う日が。


「そんなにお仕事が大事?」

「むしろ、めちゃくちゃに大事でしょ……」

「ん~……でも~……」

「そろそろ離してくれないと、ボク遅刻しちゃうよ。そうしたらお仕事もクビになっちゃって、お給料ももらえなくなるんだよ? ひーくんはそれでもいいの?」

「よくない……。よくないけど~……でも、今日はぬいくんといっしょにいたいな~……」

「……」

「ダメ?」


 そんな言い方はずるい。

 ボクだって本当は仕事なんて行きたくない。

 わざわざストレスを溜めに行きたくなんてない。

 できる事なら毎日が休日とでも言わんばかりにひーくんといちゃいちゃして過ごしたい。


 でも、そんなポンポンと休めるような人種ではないのである、社会人は。


「ダメ」

「……僕より仕事の方が大事なの?」

「ひーくんが大事だからお仕事行くの」

「むー……」


 唇を尖らせて抗議の意思をダダ洩れにしているひーくん。

 それでも一応は納得してくれたのか、ボクを引き留める力は抜けていた。


「もう……なるべく早く帰ってくるようにするから、いい子で待っててね?」

「うん……お昼には帰って来る?」

「来ないよ! さすがに早すぎるって!」


 尤も、今はこんなにもいじらしい態度を取っているひーくんではあるものの、少し時間が経てばいつものひーくんに戻ってしまうのは目に見えている。

 ボクが休憩時間にチャットを送っても、ゲームに夢中で既読すらつかないのだろう。


「それじゃあ、行ってくるね」

「ちゅーは?」

「……したいなら、どーぞ?」

「ぬいくんからして?」

「……」


 いつもは自分から無理やりにでもしてくるくせに。

 甘えん坊な時はひたすらに甘えん坊になるのだから困る。


 しかし、それならさっさと出社してしまえばいいものを、律儀に応じてしまうボクも悪いのだろうけれど。


「仕方ないなぁ……はい、ちゅー……」

「んー……♡」

「っ!? ちょ、ちょっと! 舌入れてこないでよ!」

「え~? だって、いつもしてるでしょ?」

「ボクはこれから仕事なの!!」

「……これから仕事だと、舌入れちゃいけないの?」

「それは……っ、じゃ、じゃあね! いってきます!」

「いってらっしゃーい♪」

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