後の祭りの後夜祭
「はっ……ぁっ……♡」
声はなんとか抑えられた。
ひーくんの体に顔を埋めることで、息苦しさと引き換えに。
絶頂時の痙攣も軽減できた。
ひーくんに体全体でしがみつくことによって。
耳に入ってくる情報から、周囲の人たちには隠し通せたらしい。
もしも気づかれていたらイベントを追い出されるどころか警察沙汰、果てにはSNSによる拡散もありえただろう。
今更ながら、自分がしでかしたことを思うと冷や汗が止まらない。
「えーっと……ぬいくん……?」
頭上から降りかかるひーくんの声。
その声には、まさか、と言う感情がこれでもかと込められていた。
いくら周囲には気づかれなかったとしても、ひーくんにだけは隠し通せるはずもない。
何せ抱き合っている人間が射精してしまっているのだから。
これで気づかなかったら、鈍感というレベルではない。
「ごめん……出ちゃった……」
こんな状況で嘘を吐いても仕方がない。
そんなのはすぐにバレてしまうのだから。
しかし、こんな状況でも素直に「出しちゃった」とは言えないなんて。
自己責任100パーセントなのにまるで事故のような言い方をするあたり、我ながら小狡いとは思う。
「そっか~……それは~……仕方ないね~……」
「うぅっ……」
ひーくんが気を遣い、言葉を選んでいることが伝わってくる。
実際、ひーくんからしてみれば気まずいことこの上ないだろう。
なんならドン引きして、愛想を尽かしたって仕方がないような……
(……あれ? これ……もしかして、結構まずい……?)
ボクのしでかしたことは変態なんて野次では済まされない。
常識に欠ける行為であり、良識のない行いだ。
最悪の場合、このままひーくんが家に帰らないなんてこともあり得る。
こんな一時の性欲に身を委ねてひーくんが離れてしまうなんて洒落にならない。
(どっ、どうしよう……! とにかく、弁明しなきゃ……!)
体が急激に冷え、脂汗が背中に滲み出して、とにかく離してはならないとひーくんの服を掴む手に精一杯の力を込めて――
「ん~……ねえ、どうする?」
「えっ!?」
――突然、ボクはひーくんに頭を撫でられた。
「とりあえず、トイレ行く? それとも……ホテル行っちゃう?」
それは、到底愛想を尽かしたような人間にかける言葉ではなかった。
「なっ……ど、どして?」
「ん?」
「っ……けっ、軽蔑しないの?」
「しないよ? ぬいくんがえっちなのはいつものことでしょ?」
「うっ……」
ボクの頭が性欲に支配されがちなのは否定できないけれども、公衆の面前で達してしまうのも仕方ないような人間だと思われているのだろうか、ボクは。
「それに……えっちなのはお互い様だから」
「お互いって……えっ!?」
「んふふ~、僕も我慢できなくなってきちゃった。ホテルで良い?」
「ちょっ、ちょっと待って! 行くにしても、まずはトイレだよ!? 着替えとか、後処理とかしないとだから!」
「りょ~か~い。それじゃあ、行こうか」
そう言うと、ひーくんは僕のことを抱き抱えた。
軽々と、互いの股間が周囲からは見えないようにしながら。
「えっ!? こ、これで行くの?」
「他に方法ある?」
「っ……なっ、ないけどぉ~……」
こうして、ボクはひーくんに抱っこされ、カメラを向ける人たちに見送られながらその場を後にすることになりました。
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